ネトゲの重要アイテムを独占販売して巨万の富を築いた話

 先日、ニュースで懐かしい名前をみかけた。

 →PC用MMORPG「ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜」のサービスは3月31日をもって終了。8年の歴史に幕を下ろす4Gamer.net)

 2008年4月にスタートしたMMORPGドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜」(以下、ドルアーガオンライン)。往年の名作のオンライン化やアニメ放送との連動といったことから話題を集め、当初はそれなりに賑わいをみせた。しかしその後、コンテンツの行き詰まりや、資金難による運営移管でのゴタゴタ、プレイヤーのスマホゲー移行が進んだことなどから過疎が進む。

 「いつ終わるんだ」とささやかれつつも生き長らえ、サービス開始から8年経った2016年1月末、ゲームの中心であるドルアーガの塔を原作と同じ60階まで実装。鎮座するドルアーガが倒されたところで、サービス終了がアナウンスされた。多くのオンラインゲームが終わりらしい終わりを作れずに消滅していったことを思うと、その過程はどうあれドルアーガオンラインは幸福な最期を遂げたと言えるだろう。

 ドルアーガオンラインはいちプレイヤーとして、それなりに本気で遊んでいた僕としても、思い出深いゲームだ。サービスが終わってしまうこの機会に、つれづれと振り返っておこうと思う。

 僕がドルアーガオンラインをプレイするきっかけとなったのは、雑誌の企画で“イズミプロジェクト”というコンテンツファンドを取材したこと。アニメや映画は、さまざまな企業が1つの作品に投資する製作委員会方式で進めるのが一般的だが、イズミプロジェクトは単独の作品ではなく複数のアニメ、そして関連するオンラインゲームなどにもまとめて投資する方式。これによってリスク低減や、メディアミックス効果が見込めるということで作られたスキームである。ドルアーガオンラインは、このイズミプロジェクトの1つの企画であった。

 2008年1月、イズミプロジェクトの運営に携わるGDHの偉い人(結構若かった)たちに取材。その後、帰りのエレベーターへ向かう際の雑談で、広報のお姉さんから「堀内さんもプレイしてくださいよ〜」と社交辞令的に勧められ、特に考えもなく「分かりました!」と答えたのが始まりとなった。なおGDHは当時、債務超過に陥っており、2009年7月には東証マザーズ上場廃止ドルアーガオンラインにも少なからずの影響を与えたのだが、それはまた別の話である。

 ウルティマオンラインラグナロクオンラインFF11などのヒットで、2008年ごろ、オンラインゲームは全盛期を迎えていた。4Gamer.netのオンラインゲームカレンダーを見ると、毎週のように新しいオンラインゲームがサービスインしていることが分かる。

 オンラインゲームは正式サービスを始めるまで、いくつかのベータテストのフェーズを経る。ベータテストは機能や負荷テストを目的としたもので、プレイヤーのレベルやアイテムなどは正式サービスに引き継がれないことが多い。ドルアーガオンラインは2007年12月にクローズドベータが行われていたのだが、僕が参加したのは2008年2月29日から5日間行われたプレオープンベータから。

 僕はゲームは好きだったのだが、オンラインゲームはそれまでほとんどプレイしていなかった。オンラインゲームは売り切りのオフラインゲームと違い、長く運営することを目的としているので、明確なエンディングが用意されていなかったからだ。また、ネトゲ廃人という言葉があるように、ハマると生活が壊れてしまうのではないかとも恐れていた。

 しかし、実際にドルアーガオンラインをプレイすると、オンラインゲームの魅力にとりつかれてしまった。モンスターを倒してレベルを上げ、クエストをクリアしてストーリーを進めていくのはオフラインゲームと同じ。しかし、周りのキャラクターはすべて、生身の人間が操作しているのだ。パーティを組んでモンスターを討伐したり、チャットが流れている様子を見たりすると、とてもワクワクしたことを覚えている。

 エンドコンテンツとなるドルアーガの塔も魅力的だった。5人1組のパーティで挑むのだが、各階に“エニグマ”という謎が仕掛けられており、エニグマを解くと貴重なアイテムが入った宝箱が出現するのである。下層階のエニグマは原作に準拠しており、例えば1階では原作と同じくグリーンスライムを3匹倒すと宝箱が出現した。宝箱に入っているのもマトックである。

 塔内の音楽も原作通りで、初めて入ったプレイヤーは懐かしさから立ち尽くしていたものだった。ちなみにドルアーガの塔の曲は、当時発売されたばかりの初音ミクによって「おなかすいたうた」という替え歌が作られていたのだが、その「いくら丼が食べたかったな〜」という歌詞を踏まえて、ドルアーガオンラインでも「いくら丼食べまくりキャンペーン」なるイベントが開催されていた。

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 今にして思うと、エンドコンテンツが謎解きというのは斬新なアイデアだ。多くのオンラインゲームでは、強力なボスの討伐、レアアイテムを得るためのダンジョン周回、対人戦といったものがエンドコンテンツ。ただ、これにも良し悪しがあって、簡単な謎解きはすぐに解けるのだが、難しいものはまったく解けないため、モチベーションが続かないのだ。中には、サービス終了が決まった今でも解かれていないエニグマもある。延命と批判はされるが、FF11アレキサンドライト終身刑FF14の週制限トークンのように、毎日少しずつでも進められるエンドコンテンツに行き着いてしまうのも、分かる気がする。

 プレオープンベータは5日間という短い期間だが、やれることの少なさから考えると、十分な長さがあった。レベルは上限の14まで6時間ほどで到達でき、マップも5つほどしか実装されていなかったからだ。やることがなくなったプレイヤーは徐々にログアウトしていき、残ったプレイヤーはドルアーガの塔エニグマに挑んだり、チャットに興じたりしていた。

 ただ、やることがなくなったプレイヤーでも探検できなかったマップがまだ存在していた。それはエルブルズの岩穴というマップで、推奨レベルが16以上となっており、プレオープンベータ時点でのレベル上限の14で探検することは困難なマップ。後々のアップデートのために用意された場所である。僕も仲良くなったプレイヤーと4人パーティを組んで挑んだのだが、モンスター1体を倒すのに数分かかってしまったこともあってあきらめていた。

 あきらめていたのだが、プレオープンベータテストが終了する2時間ほど前、エルブルズの岩穴の前で知り合ったSさんとチャットしていて状況が変わる。「数を集めたらどうなんだろう」という話になったのだ。早速手分けして、「最後に面白いことしようよ!」と各マップで参加を呼びかけると、ヒマしている人が多かったのか、終了1時間前には100人以上が集まることに。

 順にパーティを組んで、エルブルズの岩穴に突入。4人だと倒すのに3分かかったモンスターでも、人数が30倍だと6秒で倒せるのである。人数制限のないオンラインゲームならではの攻略法だ。

 マップを見ると、最深部になにかありそうな祭壇が表示されている。プレオープンベータテストの終了時間が迫る中、そこを目指して、数の暴力で突き進んでいくプレイヤーたち。画面狭しと表示されるキャラクターたちが奥へと駆けていき、チャットがひっきりなしに流れる様子は、まるでお祭りのようだった。

 奥へ奥へと進んでいき、数十分後、最深部に到達。すると、その祭壇からトゥルーオレンジというボスモンスターが登場。そしてボスモンスターを守るように、取り巻きのモンスターもあちこちに現れる。

 そこまでは順調だったものの、1撃でHPを削りきってしまうボスにはさすがに歯が立たず。「頑張って!」「後は任せた」とチャットを残し、一人、また一人とやられていくプレイヤーたち。それはまるで『ソードアート・オンライン』のフロアボス戦のような光景だった。

 結局、僕らは全滅してしまったのだが、奥までたどり着き、ボスモンスターと戦えたという満足感は得られた。プレオープンベータの残された時間で、興奮冷めやらぬ僕らは「楽しかったね」「ベータテストでもよろしく!」などと話していた。プレオープンベータ終了後、2ちゃんねるドルアーガオンラインスレに最後の戦いのスクリーンショットがアップされたのだが、普段は皮肉屋の多い2ちゃんねるでも、「ヤバイな」「俺も参加したかった」などと沸き立っていたことが印象に残っている。

 あれからいくつものオンラインゲームをプレイしてきたが、僕にとって一番ドキドキした思い出と言える。この思い出があるから、オンラインゲームをプレイしているのかもしれないと思うこともある。

▼巨万の富を築いた話

 初期の出来事を振り返っていたら、タイトルと関係のない話が長くなってしまった。タイトルのように巨万の富を築いたのは2008年4月1日に正式サービスが始まった後のこと。

 正式サービスが始まった後、レベル上げの終わった僕は、毎日のようにパーティを募集して、ドルアーガの塔エニグマ解明に挑んでいた。だいたいは徒労に終わったのだが、ある日、Lさんというお調子者のリーダーが呼びかけた5人パーティに加わった時のこと、数時間の苦闘の末、8階のエニグマを見事最初に解明することができたのだ。

 8階のエニグマは、特定の地点で5人それぞれが戦隊ポーズのような動作をするという難しいもの。ちなみにこのエニグマは、今はカドカワの取締役となった浜村通信こと浜村弘一氏が作ったものである。

 →ドルアーガの塔 「究極のエニグマ」第1弾は浜村弘一氏(MMOfan)

 エニグマを解いた時に出現する宝箱に入っていたのは、後のアップデートで実装される生産職に就くためのチケット。オンラインゲームをプレイしたことがある人なら分かるだろうが、“超”を10個つけてもいいくらいの重要アイテムだ。ゲームによっては、生産職が作った装備が最強であることも珍しくないのである。

 当時、ギルドのような閉じたコミュニティは実装前だったので、各階のエニグマの解法は解明されると自然に広まっていた。たとえ最初に解明したパーティが広めるつもりはなくても、簡単なエニグマだと、別のパーティが解明して広まることも少なくなかった。ただ、8階のエニグマは結構難しい内容で、すぐに他のパーティが解明することは困難にみえたので、僕らは解法を広めるか、それとも内緒にしておくかしばらく悩んだ。

 結局、「誰かが話したら仕方ないね」みたいな感じでパーティを解散したのだが、それから1週間経っても、他のパーティが8階のエニグマを解いた様子はなかった。つまり全員が秘密を守ったのである。

 ここに至って、「じゃあ、エニグマを解いたパーティでチームを作ろうよ」という話になり、IRCやメンバー限定のWikiを拠点とした交流が始まることとなる。実際に会ったことがない、住んでいる場所も年齢も違うプレイヤーと、ゲームのことからゲームとは関係ないことまで語り合う日々。普段、似たような属性の人としか関わっていなかった僕にとって、ゲームを通じて出会った人たちとの会話はとても新鮮に感じられた。

 僕らが8階のエニグマを解明したのは4月上旬。その報酬を生かせる生産システムが実装されるアップデートは、5月28日に予定されていた。そこまで8階のエニグマが他のパーティに解明されずにいれば、僕たちだけが生産システムを利用できることになる。来るべきアップデートに備えて、僕らは信頼できそうなメンバーを探しては勧誘していた。

 しかし、僕たちの期待もむなしく、8階のエニグマはアップデートの直前、5月中旬に他のパーティにも解明されることとなる。今にして思えば、生産職のチケットはあまりに重要なアイテムなので、多くのプレイヤーが手に入れられるよう、解法が広まらなくても運営がヒントを出していたのではないかという気もする。また、オンラインゲームの性で、重要アイテムの情報を独占していたら、他のプレイヤーたちからめちゃめちゃ叩かれただろうことは想像に難くない。

 ともかく状況が変わったので、僕たちは方針を転換。持っていた生産職のチケットを他のプレイヤーに売ることに決める。他の解明したプレイヤーに先に売られたらマズいと思っていたのだが、すばやく動けたので、結果、5万ゴールド(注:本当は別の単位だが分かりやすくした)という高値でいくつかの生産職のチケットを売り抜けることに成功した。

 5月28日に生産システムが実装された後、ここで得た資金を元手に商売を始めることとなる。

 生産システムでは武器や防具、回復薬など、さまざまなアイテムを作れたのだが、僕たちが目をつけたのは力の印章というアイテム。力の印章を使用すると武器を強化したり、壊れにくくしたりできるのだ。ある程度、武器を強くしないとパーティに入りにくくなることもあったので、必須のアイテムと言える。そして新しい武器が出るたびに必要になるので、需要は無限だ。

 ドルアーガオンラインの生産システムは、規定の素材を揃えて生産コマンドを入力すると、生産レベルごとに一定の確率で成功して完成品を得られるというもの。失敗すると何も得られない。問題の力の印章を作るために必要な素材は次の通りである。

 力の印章=ブランクタブレット×10+神気の触媒×30
 ブランクタブレット=赤土×20+鉄製の鋳型×1

 このうち神気の触媒(150ゴールド)と鉄製の鋳型(180ゴールド)はNPCショップで販売されていて、お金を払えばいくらでも調達できた。一方、赤土は非売品で、モンスターを倒したときのドロップアイテムなので、自分で集めるか、他のプレイヤーから買い取る必要があった。NPCショップに赤土を売ると1つ5ゴールドなので、基本的には1つ6ゴールド以上で買い取ることになる。

 生産レベルによる力の印章の生産成功率は、レベル5で40%、レベル6で50%、レベル7で60%、レベル8で70%、レベル9で75%、レベル10で80%、レベル11で85%、レベル12で90%、レベル13で95%、レベル14で100%。

 赤土1つを6ゴールドで集めた場合、力の印章の生産にチャレンジするために必要な素材価格は1回あたり7500ゴールド。これに生産成功率を掛け合わせると、力の印章1個あたりの原価は次のグラフのように変化する。

 また、生産レベルは低レベルのうちは上がりやすいが、高レベルになるとレベル9→10=力の印章1000個、レベル10→11=力の印章2000個、レベル11→12=力の印章5000個、レベル12→13=力の印章10000個、レベル13→14=力の印章50000個もの試行回数が必要となる。

 勘の良い方なら一瞬で理解できるだろうが、これは先行者が圧倒的に有利なシステムである。レベルを上げると原価を下げられるので、販売価格を下げてマーケットのシェアを取り、それによってレベルが上げやすくなり、さらに原価を下げられるというサイクルが回るのである。現実の商売でも似たような状況があるだろう。しかも現実と違い、オンラインゲームには独占禁止法という法律はないのだ。

 生産で商売するためには、大きく分けて生産、素材の調達、生産物の販売の3つの活動を行う必要がある。多くのオンラインゲーム、例えばドラクエ10FF14だと中央取引所が用意されていて、そこにアイテムを登録すれば売買できるので、調達や販売の手間は省け、生産に集中できる。

 しかし、ドルアーガオンラインは中央取引所がなく、看板を掲げて相対取引するシステム。そのため、調達や販売、特に調達で非常に苦労することになる。

 1日に売れる力の印章は多い日には200個以上。力の印章の生産成功率が100%だったとしても、必要な赤土の量は4万個だ。普通のプレイヤーがモンスターと1時間戦って得られる赤土の量が100個という状況である。どれだけ大変かが分かるだろう。

 しかもシステム的に生産と販売と調達を同時に行うことはできなかった。そこで僕たちは生産と販売、調達の役割をチーム内で分担することにした。生産はRさん、販売が僕、調達はそれ以外のメンバー全員である。メンバーが集めてきた赤土をRさんに渡して生産、それを僕が受け取って販売するという流れである。

 販売担当の僕としては、どこで売るか、いくらで売るかということが最大の問題。どこで売るかはすぐに決まって、人通りの多い街中で看板を掲げることになった。同じ場所でずっと売るようにすれば、場所を覚えてもらってNPCのように買ってもらえるというわけだ。

 しかし、いくらで売るかが非常に難しかった。特にライバルが現れた時は日々、夜中のIRCで激論が戦わされた。

 ライバルが原価を理解せずに、すぐに売り切ろうと最安値をつけてくるなら対処は簡単。あえて価格競争をして、相手が原価を大きく下回る販売価格をつけたところで買い占め、もともとの価格で販売すればいい。

 しかし、ライバルが原価を理解しつつ、生産レベルを上げるためにやや赤字くらいで出してこられると対処に困る。生産役のRさんの生産レベルはゲーム内で一番高く原価も一番安いのだが、その原価さえも下回る価格だと消耗戦になってしまう。

 ある時、僕らが力の印章を1個1万ゴールドで出したら、ライバルも1個1万ゴールドで出し、僕らが1個9980ゴールドに付け替えるとライバルも1個9980ゴールドに付け替えるといった、原価付近での地味な争いが勃発した。

 僕たちは「一番安い価格で出している」というイメージを持ってもらうことを重視していた。消費者としては「頑張ったら、より安い店が見つかるかもしれない」と思っても、馴染みの店が有名な安売り店なら、探し回る手間が面倒なので、有名な安売り店で買うだろうということである。最安値を簡単に検索できる中央取引所がないからこそ、とらなければならない戦略だ。

 いくつか対抗策をとったのだが、その1つが2プライス戦略。看板に「力の印章 1個9000〜1万ゴールド」と書いておき、多くは1万ゴールドに設定するのだが、5個ほどは激安品として原価割れの9000ゴールドに設定するのである。激安品をライバルに買い占められて9500ゴールドくらいで売られるとやっかいなので、激安品の補充はランダム。こうするとライバルは付いてきにくくなったのか、1個1万ゴールドから値段を動かさなくなり、僕らの最安店のイメージは守られた(?)のである。

 それにしても日々、数万個の赤土を調達するのは本当に大変だった。Rさんが呼びかけて、赤土を売ってくれるお得意さんも確保していったのだが、それだけでは全然足らない。高い金額で赤土を買い取ると集まりやすくはなるのだが、原価が上がってしまう。原価が上がると、自力でモンスターを倒して赤土を集めるライバルに有利に働いてしまう。

 そこでメンバーが赤土を集めやすくなるように、他のプレイヤーからは赤土を1つ7ゴールドを上限に買う一方、メンバーからは1つ8ゴールドで買い取るようにした。つまり、メンバーが他のプレイヤーから7ゴールド以下で購入したら利益が出るようにしたのだ。買い取り価格は夜中のIRCでの激論で常に変動させていたのだが、これによってメンバー全体に力の印章販売での利益が分配されるようになった。そして在庫や儲けの状況をメンバー限定Wikiで常に公開して、参加意識を醸成したのである。

 後に知ることになるのだが、オンラインゲームの商売戦争で集団戦が成立することは珍しい。なぜなら、だいたい利益配分でもめてしまうからだ。これも現実と同じだろう。生産役が利益を独占して、ほかのメンバーがただ働きする例が多いのだが、これだと最初は楽しさから協力してくれても、長くは続かない。結果的に1人で数PCを駆使するプレイヤーが勝利することになるのである。また、僕らは権限を分散したことで、強い発言力を持つプレイヤーが出ず、常に議論で決めていたことも、良い方向に働いた理由になったと思う。

 そんなこんなで数カ月、ひたすら力の印章を売りまくって、気付けば1000万ゴールド以上を稼ぐこととなった。当時は10万ゴールドでもかなりお金持ちな方。先ほどログインしたら、その時に貯めたゴールドをまだ持っていたのだが、今にして思うと、ゴールドを活用してイベントを開催し、ゲームを盛り上げたら良かったのかもしれない。

 ドルアーガオンラインは原作者の遠藤雅伸@evezoo)さんも普通にプレイしていて、過疎化が進行してくると自らギルドを設立して盛り上げようと努力していた。原作から遊んでいる人からすると神様のような存在なのだが、かなり頻繁にプレイしていたために、オヤジのようなポジションになってだんだんウザがら……プレミア感が薄れていったような気はしないでもない。

 2008年12月末には遠藤さん主催のオフ会が開催され、僕も参加したのだが、「ほりー(メイン)とクラーク(販売用)というキャラクターで遊んでいます」と自己紹介すると、遠藤さんに「お前があのボッタクリか!」と冗談混じりに言われたことが記憶に残っている。

 他のプレイヤーからも“業者”とも呼ばれたのだが、生産レベル10と11の間くらいの原価に販売価格を設定していたので、そこまでボッタクリではない薄利多売モデルだったはず。別のオンラインゲームで“業者”と呼ばれるキャラクターを見るたびに、「もしかするとあのキャラクターの向こうには僕たちのような人がいるのかな」と思ったりもした。

 →【the Recovery of BABYLIM】オフ会開催報告遠藤雅伸公式blog「ゲームの神様」)

 結局、力の印章の独占販売は1年ほど続いたのだが、さまざまな理由からドルアーガオンラインでの活動は下火になり、タワー オブ アイオンやFF14などに移住していくこととなる。その1つの理由となったのは、モンスターを自動的に倒して赤土を集めるBOTがはびこったこと。赤土がタダで大量に手に入ることになるので、BOT使用者にとっては力の印章の原価計算の前提が変わるのである。それではゲームにならないので小まめに運営に報告していたのだが、GDHのゴタゴタによる運営の混乱もあって対処されなかったのだ。

 今、改めてギルドのメンバーの最終ログイン日を見ると、2010年以前がほとんど。その後にログインしているプレイヤーも、筆者を含めて何かのイベントの際に様子を見に来ただけだ。

 仕事でもないのに毎日毎日激論を戦わせていたIRCのメンバーたち。実は名乗った上で直接会ったことがあるメンバーはいなかったりする。ひとりまたひとりと姿を消していったメンバーだが、2011年の東日本大震災の時などでは、お互いの安否を気遣い、支えとなったこともある。僕やRさんも含め、現在でも細々と続いているので、あの時のメンバーがもしこのブログを読むことがあったら、また気軽にIRCに寄ってほしいなと思う。

 この8年でオンラインゲームの世界も変わった。昔は個人発信しているのが数少ないブロガーしかいなかったのが、今ではTwitterやニコ生での配信が当たり前になり、会ったことがないプレイヤーの顔も見えるようになった。オンラインゲームも随分、明るくなったなと隔世の感を禁じえない。

 ……3月31日のサービス終了まで、ほりーやクラークといったキャラクターをログインさせておく予定です。当時、一緒に冒険した人たちやライバルだった人たちとも昔話もしたいので、見かけたらお声がけいただければ!(放置している時間も多いのですが)。

 このブログを読んで興味を持った方も、ぜひ一緒にドルアーガオンラインの最期を看取っていただければ。GMがレベルを上限の120まで上げてくれる(=ドルアーガと戦える)イベントをやるかもしれないという話もあるので。

【追記】そして3月31日24時、『ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜』はサービス終了しました。

電子書籍『ジャンケン基本論』試し読み版

  試し読み版を掲載するまでの経緯はこちら
 →「アイティメディア退職と電子書籍『ジャンケン基本論』発刊のお知らせ



ジャンケン基本論』目次
第1章 確率論
第2章 駆け引き論
第3章 イカサマ論
第4章 気合い論
おまけ 表紙ができるまで――ラフイラスト公開

 ジャンケンとは罪作りな競技である。ほんのわずかな手の形の違いがあらゆることを決めてしまう。かくれんぼのオニ、ハワイ行きの権利、新曲プロモーションへの参加……時には命を賭けたギャンブルに使われることさえあるとマンガで読んだことがある。

 しかし、ジャンケンはプレイされる機会が野球やサッカーより、はるかに多いにもかかわらず、深い洞察の末に生み出されるようなテクニックは語られてはこなかった。

 “ただの3種の手の出し合い”と思うことなかれ。言うなればサッカーもただのボール蹴り。ただのボール蹴りにセットプレーやボランチストイコビッチといったカッコ良さげな名前が存在するのに、どうしてジャンケンにはないのか。

 あらゆる競技に極意とも呼ぶべき技術があるように、実はジャンケンにも奥の深いテクニックが存在する。この『ジャンケン基本論』は、筆者が編み出したジャンケン理論や、ちまたで語られるジャンケンテクニックを集め、そして発展させた作品である。

 「ジャンケンはそのランダム性こそが魅力なのだ」という意見もあるだろう。強者と弱者の力の差が歴然とするボクシングや将棋などと違い、ジャンケンではランダム性が存在するがゆえに、大人や子どもやお姉さんたちの勝利のチャンスが平等になっているのは事実である。

 また、「運悪く負けてしまい、ゴミ捨てに行ったら、勝った場合よりドラマチックなストーリーに巡り会えた」という話はありえないことではなく、むしろ昨今のマンガではそこから物語が始まるのが基本となっている。

 常に勝つ方がいいとは限らない。しかし、私は悲壮の運命主義に陥ることを勧めたくはない。重要な局面で勝利と敗北を自由に選べるということは、運命という名の神に身を委ねず、自らの意志を貫けるという点において、意義あることなのだ。少なくとも技術を知っていれば、それを使うか使わないかという選択ができる点で、知らないよりマシなのは確かである。

 ジャンケンの仕組みは、そのシンプルさにおいてすべての駆け引きの基本である。ゆえに、言うまでもないことだが、この理論はほかの局面にも容易に応用できる。そのため、「公平じゃないと意味ないじゃん」とジャンケンをこうして理論化することに抵抗を感じる方々にも、読んでいただければありがたいと思う。

第1章 確率論

 始めはストレートなアプローチ、確率をテーマにジャンケンを分析していこう。かつて、物理学者スティーヴン・ホーキング氏は「数式が1つ増えるごとに、その本の売り上げは半減する」という法則を示したことがある。従ってこの章では、確率を扱うにもかかわらず、数式は使用しない。気になる数値があれば、各自計算していただきたい。

 まず、次の中学入試にも出ないような確率の問題を解いてもらいたい。

 「AさんとBさんが勝ち負けが付くまでジャンケンをする。Aさんが勝つ確率は何%か?」(永遠にあいこが続くといった可能性は考慮外とする。以下の問題も同じ)

 裏をかこうとした人がいたら申しわけないのだが、正解はもちろん50%。では、次の問題。

 「Aさん、Bさん、Cさんがジャンケンをして、1人の勝者を決める。AさんかBさんが勝者となる確率は何%か?」

 正解は小数点第3位以下を四捨五入して66.67%。ここまでは容易に理解できるだろう。大切なのは次の問題だ。

 「Aさん、Bさん、Cさんがジャンケンをして、1人の勝者を決める。AさんかBさんが勝者となる確率は何%か。ただし、AさんとBさんは協力するものとする」

 前問と同じ66.67%では間違いで、正解は75%。

 1+1が2より大きくなることに、「なぜ?」と思われるかもしれない。もちろん普通にやっていては、この勝率にはならない。この問題のポイントは、AさんとBさんが協力するところにあるからだ。

 その協力とはすなわち「Aさんが常にBさんに勝つような手を出す」ということである。こうすると、ジャンケン1戦目で[Aさん+Bさん]陣営がCさんに勝つ確率が50%。1戦目で[Aさん+Bさん]陣営がCさんに負ける残りの50%でも、Aさんは必ず勝ち残るので、2戦目はAさんとCさんの1対1の勝負となり、そこでAさんが勝つ確率は50%。よって、[Aさん+Bさん]陣営の勝率は、合わせて75%となるのである。

 どうして、勝率が66.67%から75%に上がるのか? それは共同戦線を張るAさんとBさんが、同じ手を出すことを防いだからにほかならない。最終的に1人残ればいいのだから、2人が勝っても意味がない。そこで、1人を犠牲にして、Cさんを倒すチャンスを2回確保することによって、勝率の上昇を図ったというわけである。次の問題はこの応用編だ。

 「Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんがジャンケンをして、1人の勝者を決める。Aさん、Bさん、Cさん、Dさんのうちの誰かが勝者となる確率は何%か? ただし、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんは協力するものとする」

 前問を参考に考えると、要はEさんを倒すチャンスをできるだけ増やせばいいのだから、最初はAさん、Bさん、CさんがDさんに勝つ手を出し、Eさんが勝ち残ったなら次はAさん、BさんがCさんに勝つ手を出せばいい。これを繰り返せば、[Aさん+Bさん+Cさん+Dさん]陣営の勝率は93.75%になる。協力しなかった場合の80%に比べると、かなり高い勝率だ。

 しかし、この問題に「1人の勝者には1万円が与えられる」という注釈が付いたなら、話は違ってくる。便宜上、自分たち以外には協力するグループがなく、勝利時の賞金はグループ内で均等に分けるとすると、1人当たりの賞金の期待値は単独なら2000円、2人グループなら2344円、3人グループなら2569円、4人グループなら2344円、5人グループ(事実上の出来レース)なら2000円となり、3人グループの場合に最も期待値が高くなるのだ。

 では、N人でジャンケンをした場合、何人のグループを組めば1人当たりの利益が一番高くなるのか?

 プログラムを組んで計算したところ、3〜4人なら2人グループ、5〜6人なら3人グループ、7〜10人なら4人グループ、11〜16人なら5人グループ、17〜26人なら6人グループ、27〜42人なら7人グループが最善という結果となった。

 7人くらいまでのジャンケンなら、グループの人数を増やしていくのが有効だが、一定人数以上になると、それほど増やさなくても良くなる。1000人でジャンケンをする場合でも、13人グループが最も期待値が高くなるようだ。この場合のグループメンバー1人当たりの期待値は684円と、協力しない場合の10円の68.4倍にもなる。

 ただ、それだけ多くの人数でのジャンケンだと、あいこになる確率がほぼ100%なので、実際にやるとどれだけ時間があっても勝負がつかない可能性が高いのだが……。

現実に応用しよう

 次は新傾向の問題。算数の教科書のようになってきたが、数字が嫌いな方には申しわけない。こういう流れは第1章だけなので、もう少し我慢していただきたい。

 「定員2人のアルバイトにAさん、Bさん、Cさんが申し込み、ジャンケンで勝った2人を採用することになった。AさんとBさんが同時に採用される確率は何%か? また、AさんとBさんが同時に採用されるような最善策をとった場合、何%になるか?」

 最初の確率は、Cさんが負ける確率と同じなので33.33%。また、最善の策とはAさんとBさんが同じ手を出すことなので、2番目の確率は50%となる。先ほどまでの問題の傾向よりは分かりやすいだろう。

 最後はこれまでの問題を踏まえた上での実用編である。

 「AさんとBさんは大の仲良し。彼らは定員2人のアルバイトに応募したが、CさんとDさんも応募してきたため、定員の2人をジャンケンで決めることになった。AさんとBさんは一緒にバイトをするためにどうすればいいか? ただし、CさんとDさんを脅してはいけない」

 何も策を使わずにジャンケンすると、AさんとBさんが勝ち残って一緒に働ける確率は16.67%。だが、前問のように、AさんとBさんが同じ手を出す策を使えば、33.33%と倍になる。これが模範解答だろう。

 しかし、筆者が用意した正解はそうではない。筆者ならアルバイトに参加する気のない友達数人――仮にEさん、Fさん、Gさんの3人とする――をさらに応募させる。

 そして、ジャンケンでまずAさん、Bさん、Eさん、FさんがGさんに勝つ手を出すようにし、Gさんが負けた後はAさん、Bさん、EさんがFさんに勝つ手、Fさんが負けた後はAさん、BさんがEさんに勝つ手、Eさんが負けた後はAさんとBさんが同じ手を出すという策を使う。そうすると、AさんとBさんが勝ち残る確率は88.02%にまで跳ね上がるのだ。ただ、ルールには反していなくても、人の道には反しているので、使用時には細心の注意を払っていただきたい。

裏切りの報酬

 ここまで確率論を進めてきたわけだが、何か違和感を覚えた人はいないだろうか? 「最後の方はいいとして、1万円のあたりが……」という人である。

 そんなあなたは正しい。そう、これまで書いてきたことはあくまで理論であって、現実に即していないからだ。現実世界には、理論を乱すプレイヤーが存在する。それは俗に“裏切り者”と呼ばれる人種である。

 先ほどの1万円を5人で取り合うゲームの例で考えてみよう。Aさん、Bさん、Cさん、Dさんがグループを組み、Eさんに対抗しようとしていると仮定。この時、「Aさん、Bさん、Cさんが、最初のジャンケンでDさんに勝つ手を出す」と取り決めをしたとする。だが、ここでDさんが裏切って、逆にAさん、Bさん、Cさんに勝つ手を出したならどうなるだろうか。

 そうすると、Dさんは3分の1の確率で勝利、3分の1の確率でEさんと1対1の勝負、3分の1の確率で[Aさん+Bさん+Cさん]陣営とEさんとの勝負になる。

 その結果、全体で見ると、Dさんの勝率は53.82%、つまり期待値で5382円得られることが分かる。これは裏切らなかった場合の期待値である2344円と比べると、はるかに高い金額である。1回だけの勝負なら、たいていの場合、裏切り者が有利になるのだ。

 では、長期戦ではどうなるのだろうか。1つの例題をもとに考えてみよう。

 「Aさん、Bさん、Cさんがジャンケンをして、勝ち残った1人が100円をもらえるという試合を数回続ける。この時、AさんとBさんとの間で事前に協力の約束がなされ、賞金は山分けすることとなった。

 ここで1回目のジャンケンでAさんがいきなりBさんを裏切った場合が、裏切らずに協力し続けた場合より損になるのは、何回以上試合が行われる時か? ただし、Aさんが裏切った場合、以後、Bさんとの協力関係は解消されるが、その際にBさんとCさんが手を組むことはないとする」

 Bさんと協力している時のAさんの期待値(1回ごと)は37.5円、裏切った時の期待値は61.11円、裏切った後の期待値は33.33円。計算すると、短期勝負では裏切った場合の期待値の方が上回るが、試合を7回した時、協力した場合の合計期待値が263円、裏切った場合の合計期待値が261円と逆転し、それ以降は協力した場合の方が期待値でより優位になっていくことが分かる。

協力か、裏切りか

 前節で「ここまでの理論は現実に即していない」と書いたが、「1人だけしか裏切らない」と仮定している点で先ほどの理論も非現実的である。現実では、協力していたはずのプレイヤー全員が裏切った、などという光景を見ることも珍しくない。さらには裏切った後に手の平を返して協力したりもする。こうなってくると理論では記述不可能になってくるが、そのような状況を考える上で役に立つかもしれない実験について紹介したい。

 それはゲーム理論で最も有名とされる実験である。この実験では、「協力」と「裏切り」のカードを1枚ずつ持った2人が、どちらかのカードを同時に場に出す。双方のカードが「協力」だった場合はお互いに3点、「裏切り」と「協力」に分かれたなら「裏切り」を出した人が5点、「協力」を出した人が0点、双方が「裏切り」ならお互いに1点を獲得する。そして、これを決められた回数だけ繰り返す。参加者数は多ければ多いほど好ましく、参加者たちが総当たり戦を行って合計点数を競うのである。

 1980年、政治学者のロバート・アクセルロッド氏が、プレイヤーの代わりに「協力」と「裏切り」のカードの出し方を示すプログラムを世界中から募集、総当たりで戦わせて「最も優れたプログラムはどれか?」を決めるためのコンピュータ選手権を開催したことがあった。

 一度相手に「裏切り」を出されると、その後すべて「裏切り」を出し続けるフリードマンプログラム、最初の2回に「裏切り」を出し、相手が報復で「裏切り」を出さないと判断するや、それに付け込んでいくダウニングプログラムなどが集まる中、総当たり戦で最高得点を得たのは、トロント大学のアナトール・ラポポート教授が応募した“しっぺ返し”プログラムだった。

 “しっぺ返し”プログラムでは1回目に「協力」を出し、その後は相手が前回に使ったカードを使うように命令されている。つまり、「『裏切り』を出したら、次はこっちも『裏切り』を出すよ」ということで、“しっぺ返し”と命名されているわけだ。1試合単位で考えると、「しっぺ返し」プログラムは絶対に相手の得点を上回れないのだが、「協力」的なプログラムとWIN-WINの関係を築くことによって総当たり戦では高得点を得るのである。これをグループで組んで臨むジャンケンの長期戦に応用してみると、面白いのではないだろうか。

 もちろん、ほかの参加者たちのプログラムの傾向によっては、“しっぺ返し”プログラムが勝てないこともある。例えば、全員が一切「協力」のカードを出さないプログラムを組んでいたなら、「しっぺ返し」プログラムが優勝することはないだろう。

 また、点数条件を変えたなら、傾向も異なってくるはずだ。前述の3人ジャンケンで協力する相手を裏切る場合、裏切った試合のメリット(協力した場合より+23.61円)に比べて、裏切った後のデメリット(協力した場合より1試合当たり−4.17円)がかなり小さいので、裏切るモチベーションは高くなる。そして、試合回数が決まっている場合は、最後の1試合(点数配分によっては数試合)は裏切った方が必ず有利になる。

 短期戦では裏切りが有利になるものの、長期戦では反撃を示唆しながらも協力することが重要だと教えてくれるアクセルロッド氏の実験。死後の世界を語る宗教や、人との関係が切れにくいソーシャルネットワークの広まりは、他者との付き合いが長期化して協力が優位になる社会に変わるということで、世界平和に貢献していると言えるのかもしれない。

包囲網を突破せよ

 マンガ『ドラゴンボール』では、どんな相手でも電子ジャーやビンの中に閉じ込められる“魔封波”という必殺技があった。しかし、魔封波によって封じられそうになったピッコロ大魔王の息子、マジュニアは“魔封波返し”なる技を使い、逆に魔封波の使い手をビンに閉じ込めてしまう……。

 必殺技なるものに、弱点が存在するのはマンガだけではない。この確率論を用いたジャンケンでも同じだ。時に不幸にして、あなたが協力の輪に加われず、孤立することもあるかもしれない。

 だが、もしそういう状況に陥ったとしても、決して絶望してはならない。確率論を用いたジャンケンでは、組んでいること自体が弱点となりうる。なぜなら、誰かと組んでいると、「次に何の手を出すか」を伝えるための手段が必要となるからだ。

 その伝達手段は一般に、「勝負の前に出す手を決めておく方法」と「勝負中に何らかのサインによって次に出す手を伝える方法」の2種類に分けられる。つまり、それを見破れば、相手陣営の結託を逆手にとれるというわけだ。

 まず、「勝負の前に出す手を決めておく方法」はどう破ればいいのか。その場合は、出す手のパターンを読むことがカギとなる。ジャンケンでグー、チョキ、パーを均等に出していくやり方は、「グー→チョキ→パー」を繰り返す“順”パターン、「パー→チョキ→グー」を繰り返す“逆”パターンの2種類しかない。

 通常、“順”パターンは単純そうに考えられて避けられる傾向にあるので、1人の勝者を決めるジャンケンで、相手陣営(仮に3人とする)がパー、パー、グーと出してきたら、“逆”パターンで動く(次にチョキ、チョキ、パーを出す)と読んで、チョキを出すのが得策だ。

 「相手陣営がグー→グー→パー→チョキ→パー→グーといったように、“順”パターンや“逆”パターン以外の順番で出してきたらどうするんだ」という意見もあるかもしれないが、普通はそんなことは起こらない。そんな面倒なサインは覚えられないし、間違いも発生しやすいため、採用されにくいのである。

 「勝負中に何らかのサインによって次に出す手を伝える方法」はどう破ればいいのか。ご存じの通り、サインというものはありとあらゆるゲームに付いて回るので、筆者より読者諸兄の方が詳しいかもしれない。ジャンケンではグループの1人がサインを出し、残りのメンバーがそれに従うという形が一般的である(基本的にジャンケンは全員参加のゲームなので、見学者がサインを出すシチュエーションはあまりない)。

 サインには、手の形や足の開き方といった身体的サイン以外にも、「天気の話をしたらグー、景気の話をしたらチョキ……」といった麻雀のイカサマでも使うような言語的サイン、通行人の数を3で割って、あまりが0ならグー、1ならチョキ、2ならパーというような偶発的サインなどがある。しかし、そういったサインはプレイヤーの視線や言葉を注意深く観察すれば必ず分かるので、気付くことができれば、結束を破るための一歩となるだろう。

 ただし、いずれの手段でも、どれだけ注意したとしても、1回目の勝負から相手陣営の手を見抜くことはできない。また、1回手を出すごとに相談されてしまうと、破りようがなくなる。数の暴力が成立するのは、民主主義の世界だけではなく、ジャンケンの世界でも同じなのだ。「相手に組まれた時点で、すでにあなたは負けている」と言っても過言ではない。

 ゆえに、「正々堂々」を座右の銘とする人にとっては「相手を組ませないこと」、そうでない人にとっては「組まれたら組み返すこと」が、重要になってくる。この局面でのテクニックは、ヒューマンスキルの領域に入ってしまうのでここでは割愛する※。

※大切なのは普段の行いである。

第2章 駆け引き論

 「こんなもん、必勝法じゃねえ!」

 第1章を読んでから、あの空に向かって叫んだ人も多いだろう。確かにその通り。普通、ジャンケンは孤独に勝負するもの。誰かと組んで勝ってもうれしくないし、後ろめたい気さえする。そもそも余ったプリンの配分を決める程度のジャンケンで、「みんな組もうぜ!」と裏工作をしようとしても、「お前、ちょっと面倒くさい」と無視されてしまうのが社会というものである。必要とされているのは、1人で勝つ戦法なのだ。

 第2章の駆け引き論で紹介するのは1人で勝つ戦法、しかも第1章の確率論のテクニックにも勝てる戦法である。ジャンケンにおいて確率は重要ではあるが、確率を超えられるテクニックが存在するのだ。

 「駆け引き」とは、相手が次にどの手を出すかを予想することや、適当なことを言って相手を惑わす戦術のことを指す。ただ、まず本題に入る前に、グー、チョキ、パーそれぞれの出されやすさに違いがあることを基礎知識として知っておいてほしい。

 芳沢光雄著『ふしぎな数のおはなし』によると、1998年、当時城西大学教授だった芳沢氏が学生たちに協力を募って、ジャンケンのデータを集計したことがあった。その結果、725人が行った1万1567回のジャンケンで、グーが4054回(35.05%)、チョキが3664回(31.68%)、パーが3849回(33.28%)出されたという。

 また、2009年度自然科学観察コンクールで入賞した河合千晶氏の研究『You are the Champion!〜大相撲巴戦に関する先行研究の理論拡張と、ジャンケン必勝法の発見〜』で行われた1万回のジャンケンでも、出された手はグーが34.0%、チョキが31.6%、パーが34.4%と似たような傾向。

 そして、世界ジャンケン選手権を主催するWorld RPS SocietyのWebサイトでも、「チョキが出される確率は29.6%と、ほかの手より明らかに低い」と書かれている。つまり、特に策を弄しないジャンケンでは、パーを出しておけば勝率は上がるというわけである。

 ただ、Webサイト『サザエさんジャンケン学』によると、『サザエさん』の次週予告のジャンケンは2013年3月24日までに1081回行われたが、グーが350回(32.4%)、チョキが374回(34.6%)、パーが357回(33.0%)とチョキが最も多くなっている。そのため、リアルに行わないジャンケンの場合は注意が必要であるようだ※。

※ちなみに『サザエさん』を制作するエイケンに手の出し方をどう決めているか電話で尋ねると、「責任者に確認したところ、その質問には答えたくないということです」「夢を壊したくないとかそういうことですか」「そうですね(笑)」というやり取りがあった。

勝負をしよう

 では、策を弄する場合はどうなるか? うだうだと理屈を並べても分かりにくいと思うので、実際にジャンケンの3回勝負をしてみよう。勝負をするために、わざわざページを空けているので、お付き合いいただきたい。

 早速1戦目。ひと言だけ、言わせてほしい。

 「グー出します」

 20行ほど下に筆者の出す手を書いているので、10秒くらいは考えて、自分の手を決めてから進んでほしい。



















 僕の手はグーです。

 では、2戦目。再び、ひと言。

 「もう一度、グー出します」




















 僕の手はグーです。

 最後の3戦目。ここでもひと言。

 「もう一度、グー出します」




















 僕の手はチョキです。

 さて、あなたの成績はどうだっただろうか。文章上での勝負とリアルでの勝負とで、どのくらい違いが出るか分からないのだが、筆者がリアルで数十戦した結果、特に1戦目ではほとんど負けなかったという結果が出ている。

 1戦目、筆者の「グー出します」という言葉に対して、「グーは出さないはずだ」と考えて、チョキを出した人は少なくなかったのではないだろうか。

 筆者が実際にこの戦法を使う時には、「グー出します」と言った後にあごに手をやり、「うーん」と考える表情を3秒、クルっと後ろに180度回転してそのままの姿勢で2秒待ち、そしてギリギリ相手に聞こえるくらいの大きさで「よしっ」と言いながら前に向き直る、という演技をする。「考えているからには、そのままのグーは出さないに違いない」と相手に思わせることがポイント。こうしてチョキという“正解”に導いていくのである。

 また、演技とは別のテクニックであるが、「グー出します」と言った後、「僕はグーを出すんだけど、チョキを出して負けてもらえないかな?」と相手に頼んで、「いいよ」と言わせる手もある。「何で?」と断られることも多いのだが、「いいよ」と言ってくれるまでしつこく頼むことがポイント。もちろん勝負なのでこの言葉にまったく拘束力はないのだが、こうするとチョキを出してくれる確率が飛躍的に高まる。

 なぜなら、「いいよ」と言ってしまったことで、相手にはチョキを出して負けたとしても「約束したから仕方がない」という言いわけができるからだ。また、「いいよ(チョキ出すよ)」と言っておきながらチョキ以外の手を出すということは、「約束を破ってまで、本気でジャンケンに臨んでいる」ということも意味している。

 いっぱしの大人ならお分かりになるだろうが、本気で挑んだ勝負で負けるとかなり恥ずかしい。「チョキ以外を出したら勝てるかもしれないが、負けたら恥ずかしい。チョキなら勝てるかもしれないし、負けたとしても『チョキ出すって言ったわけだからな。負けて当然じゃん』と言いわけできる」……そんな思考を経て、相手はチョキを出すのである。普通の人はジャンケン程度の勝負で積極的にリスクを背負おうとはしないのだ。

どこまで“知っている”のか?

 この「グー出します」作戦を使う上で、最も大切なことは何か?

 それは相手がどこまでこの作戦を知っているかを見抜くことである。相手がこの作戦を知らない場合は、たいていチョキが出るので問題ない。注意すべきなのは、相手がこの作戦を知っていて、なおかつこの作戦を知っていることを筆者に知られていないと思い込んでいる時である。実際に筆者が知っていようと関係ない。この時、相手はもちろんパーを出す。中途半端な付き合いの相手だと、ここで誤算が生まれやすいので注意しないといけない。

 そして最後、相手がこの作戦を知っていて、なおかつこの作戦を知っていることを筆者に知られていると思っている場合、つまりは公然の秘密となっている場合はどうなるか。この時も相手は筆者がグーを出さないと考えて、チョキを出すことが多い。これが筆者が2戦目でもグーを出した理由である。

 では3戦目、なぜチョキを出したのか? それには理由がある。さすがに3戦目ともなると、連続でチョキを出した相手も「手を変えよう」という気になってくるものだが、それでも2戦目と同じ理由で筆者側はグーを出すと、経験的に勝率が最も高くなる。

 それは確かなのだが、前述のWorld RPS Societyのサイトによると、3戦単位で手を決める時、全27パターンの出し方のうち、「グー→グー→グー」「パー→パー→パー」「パー→チョキ→グー」「グー→チョキ→パー」「グー→パー→パー」「パー→チョキ→チョキ」「パー→チョキ→パー」「チョキ→チョキ→チョキ」の8パターンに人気があるという。3戦目に筆者がグーを出してしまうと、この中の「パー→パー→パー」に全敗してしまうので、チョキを出したというわけだ。

 もちろん、「グー出します」作戦は相手がある程度合理的に動いてくれることが前提にある。そのため、幼稚園児などと勝負する場合は通じないので、よくよく考えて使っていただきたい。時間が足りないといった理由から、相手がさっさとジャンケンを終わらせようとしている場合も、あまりかえりみられない傾向がある。

 また、この作戦は、多人数を相手にする時に最大の威力を発揮する。全員がチョキを出して自分1人に負けている光景はなかなか感動的なものがある(存在感が薄い人だと、「グー出します」発言を無視されがちなので注意してほしい)。

2択に持ち込め

 「グー出します」作戦も、あまり連発すると相手の出す手はバラバラになってくる。そんな長期戦の場合にはどう駆け引きをすればいいのか。そんな時に役に立つかもしれない1つの考え方を紹介しよう。

 サイコロを使ったギャンブルなどをしていると、しばしば同じ目(例えば6)が連続で出て、場が混乱に陥ることがある。この時、あなたは次に何の目が出ると予想するだろうか? 「もう6は出ないだろう」と考えて、6以外の目に賭ける人もいるかもしれない。しかし、筆者なら迷わず6の目に賭ける。

 どの目であろうと、出る確率が6分の1なのは変わらない。しかし、6が連続で出るという裏には何か理由があるのかもしれない。サイコロの角がすり減っていたり、ディーラーが目を操作していたりする場合である。どうせ6分の1の確率が同じなら、多少なりとも理由がある方に賭けるのが賢い選択と言えるだろう。

 同様にとはいかないかもしれないが、ジャンケンでもこれと似たようなことが言える。相手がグーを連続で出してきた時、次もグーを出すと読むべきなのだ。なぜなら、グーを連続で出した結果、相手の思考は「『グー』『チョキ』『パー』のどれを出すか?」ではなく、「『グー』を出すか、『グー以外』を出すか?」となるからだ。

 どの選択肢を選ぶ確率も同じとすると、前者でグーを出す確率は33%なのに対し、後者でグーを出す確率は50%となる。ここでは、できるだけ相手が後者の思考に陥るようにするため、「そういえば、グー、グーと連続で出しているよなあ」などとつぶやいて、相手にはっきり意識させることが重要だ。

 ただ、前述の芳沢光雄氏の実験によると、725人が2回続けてジャンケンをした回数1万833回のうち、同じ手を続けて出した回数は2465回(22.75%)だったという。身体的には同じ手を連続で出す確率は低いので、頭でどこまで意識させることができるかがこの2択戦術を使う上でのポイントになる。あまり、意識させることができないなら、芳沢氏の研究を利用して、相手が前回出した手に負けるような手を次に出して勝率を上げることを考えてもいいだろう。

 2択に誘う戦術はババ抜きなどにも応用可能で、例えばジョーカー入りの手札を10枚くらい持っている時、ジョーカーをあえて目立つ位置に配置する戦術がよく使われる。相手を「目立つ札を取るか」「目立つ札以外を取るか」の2択思考に巻き込むのである。うまくはまれば、通常に比べてはるかに高い確率でジョーカーを引いてくれることだろう(やりすぎるとさすがに見抜かれるが)。

 「本来選択肢が多数あるはずのものを、2択に持ち込む」というのはこうした駆け引きの基本である。

パターンを狙え

 集団戦での考え方も1つ紹介しよう。

 集団でジャンケンをすると、あいこが連続して、なかなか勝負がつかないといったことがよく起こる。そんな時は冷静にほかの人間を観察することをお勧めする。何度も続くジャンケンに飽きてきて、「グー→チョキ→パー→グー」のように、第1章で言う“順”パターンや“逆”パターンで出しているプレイヤーがいるはずである。それが分かれば、次からはそのパターンで出しているプレイヤーに勝つような手を出していけば負けなくなる。

 しかし問題は、この戦術を使っている時、自分の出す手もパターン化してしまうので、逆に誰かに狙われてしまう可能性もあるということだ。もし、自分の出す手に勝つようなパターンで手を出す人がいると、自分がマークしている人と合わせた3人であいことなり、勝負が終わらなくなってしまう。そのため、パターンで出している相手を発見したとしても、誰かにマークされていないか注意しなくてはならない。

 また、同じように飽きてきたプレイヤーの中には、同じ手を出し続ける人もいる。しかし、このタイプのプレイヤーは、パターンで手を出すプレイヤーと違って、気まぐれで違う手を出してくる確率も結構高いので、狙うのは控えた方が賢明だ。自分の出す手も変化がない状況が続くので、狙っているのもバレやすい。

駆け引きを捨てられるか

 駆け引きにはさまざまなポイントがあるとはいえ、最終的には各局面でケースバイケースで対応することが迫られる。そうした際には、月並みだが「自分が考えることは相手も考える」ということを心構えとして持っておくことが大切だ。

 自分があることを考え付くに至った環境的な条件は相手にも与えられうるだろうし、条件が同じならば当然自分と同じ思考過程をたどるだろうと認めること。もちろん、過大評価は避けないといけないが、これを心がけるだけで、勝敗の行方は随分と変わってくる。相手が物心のつかない子どもであったとしても、決してあなどってはいけない。たいていの競技では実力差があれば多少油断しても勝てるが、ジャンケンという特殊な競技では1つの読み違いが致命傷になってしまう。

 そして、時には非常につらいことではあるが、相手の駆け引きの能力が自分の駆け引きの能力を上回っていると認めざるをえない場合がある。どんなに考えても必ず裏をかかれる、自分が出そうと思っていた手を相手がすでに読んでいると考えて直前に手を変えてもやっぱり負ける、勝率が3割を切ってしまっている……そんな時である。

 もちろん、偶然かもしれないが、多くの場合それは自身の駆け引きの弱さに起因しているのだろう。そして、その弱さは試合中には克服できないものである。そんな時にはどうすればいいのだろうか?

 「自分には読み合いで分が悪くなる相手はいないから関係ない」という人もいるかもしれない。だが、前途ある若者なら何かを忘れていなければ、2年後の自分は今の自分よりずっと成長しているはず。今の自分が2年後の自分と勝負したら遅れをとるはずなので、そんな人には2年後の自分が仮想敵として現れたと考えて読み進めてほしい。

 ジャンケンという競技の性格上、相手の力を認めることができれば、勝率を5割まで戻すことが可能である。つまり、駆け引きの戦いをやめてしまえばいいのだ。どうすればいいのかというと、サイコロ1つをこっそり振って、1か2が出ればグーを、3か4が出ればチョキを、5か6が出ればパーを出すのだ。

 この時、感情を顔に出してしまうと駆け引きに参加することになってしまうので、ジャンケンの前には無表情でいることを心がけ、何も喋ってはいけない(黙っているのも一種の駆け引きだが、喋っている時より、はるかに読まれにくい。個人的には笑顔も読まれにくいと感じる)。ジャンケンの面白みは半減してしまうが、これだけで相手の駆け引きの能力には関係なく、勝率を5割まで戻せるのだ。

 ただし、これもまた理論上のこと。現実には感情という要素が介入してくる。

 筆者なら相手がサイコロを使おうとしたとしても構わずに「グー出すよ」と宣言する。こう言われた相手は、サイコロを振って5か6が出た時、果たしてパーを出せるだろうか? 先ほどのジャンケン3回勝負で「グーは出さないはずだ」と思った人なら、パーを出す気にはなれないのではないだろうか。

 そのため、5か6が出ると、誰もサイコロの目を見ていないのをいいことに、「今回だけは特別」「これは練習」などと勝手な弁解を自分に言い聞かせ、サイコロの目より自分の判断を優先させてチョキを出してしまいがちになるのだ。そして、グーを出されて負けると、「サイコロの目が悪かった」などと言いわけして、自分のとった行為とそれが招いた結果を反省しない、ということはありがちである。

 つまり、このサイコロ作戦を使うには、相手の力を認めることに加えて、サイコロの目を受け入れる度量も必要なのだ。駆け引きに強い人ほど、自分の判断を優先しがちになるので注意してほしい。

第3章 イカサマ論

 ジャンケンの必勝法を求める人にとっては、第1章や第2章はいささか期待外れに終わったかもしれない。もちろん、第1章や第2章のやり方でも勝率は上げられるのだが、確実性には欠けてしまうからである。実はこの第3章でも、残念ながら必勝法を示すことはできない。しかし、必勝法ではないが、限りなく必勝法に近い方法をここでは解説していこうと思う。

 さて、ジャンケンで絶対に勝つためにはどうすればいいだろうか。1つの方法としては、黒服にサングラスなアニキたちを時給5000円で雇い、「兄ちゃん、パーはグーに負けるんやで」と相手に優しく教えてあげるというものがある。だが、時給5000円は少々高すぎるのでダメである。また、「ジャンポン」と素早く略して言って手を出し、相手の後出し負けを狙う作戦もある。しかし、意外と反応が早い人も多いので、この作戦も失敗に終わりがちだ。

 こうした作戦より現実的な策として、テレパシーで相手の思考を読み取るという作戦がある。相手がグーを出すつもりで間違ってチョキを出してしまったとか、隣のジョセフ・ジョースターがコントローラーを操作していたといったことがあるかもしれないが、これはなかなかに有効な策である。唯一の欠点は「それは無理だ」ということだが。

 だが、たとえテレパシーが使えなくても、私たちはそれに値する効果が見込める必殺技を知っている。“後出し”……それがその禁じられた技の名前である。

後出しの高速化

 “後出し”……、その甘美なる響きは我々の心をとらえて放さない。日本人にとっては、引き出しや昆布だし並みに馴染み深い言葉である。その真実を見極めるため、後出しをいくつかのプロセスに分けて分析してみよう。

フェイズ1【確認】:相手の手を目で確認する

フェイズ2【理解】:相手の手を脳で理解する

フェイズ3【思考】:相手の手に勝つ手を考える

フェイズ4【変化】:自分の手を相手の手に勝つ手に変える

フェイズ5【勝負】:手を出す

 後出しを完璧にこなすためには、この5つのプロセスを相手が手を示してからの一瞬で消化しなければならない。しばしば、「後出しをしたかどうか」で言い争う光景を見かけるが、たとえ少し遅れて出されていたとしても、それは意図的でないことがほとんど。ちょっとタイミングが外れただけだろう。

 なぜなら、この5つのプロセスをこなすためには意外と時間がかかるので、普通の人が短時間でこなすのは不可能だからだ。また、練習を積み、ある程度、時間を短縮することに成功したとしても、相手に気付かれないほどのスピードを得ることは困難だろう。

 では、構造的に時間を短縮することはできないだろうか。1つの案として、相手の構えの段階での手(勝負に入る前の握り。普通はグーかパー)を見て、あらかじめ自分の手をそれに勝つような手にしておくという策がある。常に時間を短縮することはできないが、相手が構えのままの手を出してきた時は、フェイズ2【理解】〜フェイズ4【変化】のプロセスをカットして、フェイズ1【確認】からフェイズ5【勝負】へすぐに移れる。

 だが、この方法では、相手が構えの手から変えて出してきた時は、変える候補が2択になるとはいえ、その2択に対処するため、フェイズ2【理解】〜フェイズ4【変化】までのプロセスが必要になってくる。しかも、この2択の対処に要する時間は、3択の対処に要する時間と変わらないのである。

 2択が3択に比べて有利な点として、「AでなければB」が成り立つことが挙げられる。もし3択なら、「AでなければBかC」となり、1つの選択肢を消去できたとしても、それが解答を得ることには直結しない。

 では、「相手が手を変えない時はAの手。変えた時はBの手」というように、何とか2択の作業に落とし込めないだろうか。もし、2択にできるのならば、フェイズ2【理解】とフェイズ3【思考】のプロセスを略すことができるのだが。

 マンガ『HUNTER×HUNTER』14巻では、それに対しての1つの解決策が示されている。確かに「必ず勝つ」ためには、グー、チョキ、パーの3つの手を使わなければならない。しかし、それがかなり難しいことはここまで書いた通りだ。そこで、『HUNTER×HUNTER』では、必勝法から少し妥協した「相手に負けない」方法を提示しているのである。

 相手に負けないために必要な手は何種類か?

 正解は2種類である。そう、これなら先ほどの2択が実現できるのだ。これを踏まえた、「負けない」ための後出しプロセスは次のようになる。

フェイズ1:相手の構えた段階での手を見て、あらかじめ自分の手を相手に勝つような手に変えておく(これに時間はかからない)

フェイズ2:相手が構えの手から変えようとしたら(何に変えるのかが分かるまで待たなくても、変えることさえ分かれば)、即座に自分の手を相手の構えの手に負けるような手に変える。相手が構えの手から変えないのなら、自分も手を変えずにおく

フェイズ3:手を出す

 こうすることによって構造的な時間を劇的に短縮することができる。目と手を直結させたことによって、頭で考える時間を消し去っているのだ。

後出しの宿命

 実際にこの技を使ってみると分かるのだが、相手が構えの手を変えずにそのまま出してきた時の対処が最も難しい。ついつい自分の手を変えてしまうのである。また、相手が本当に手を変えないかどうか、最後の瞬間まで見切らなくてはならないため、どうしても自分の手を出すのはその後、つまり1テンポほど遅れてしまいがちになる。

 だが、ついつい手を変えてしまうのは練習で直せるとしても、1テンポ遅れてしまうのは“後出し”をする以上、避けられない宿命である。そのため、「『ジャンケンポン』の音頭を自分がとる」「アクションを大きくする」「勝負の前にアルコールを入れる」といった細かな技巧を使って、うまくごまかすのがカギとなってくる。

 それでも相手にクレームを付けられた場合には、「負け犬の遠吠えだな」と神聖な勝負結果を交渉でひっくり返そうとするあさましさを指摘してプライドを刺激したり、「こんな一瞬でお前の手に勝つ手を考えて、それに変えることができると思っているのか?」と相手の理性に冷静に訴えたりすれば、クレームをつけた相手は引き下がるだろう。

 相手が構えの手から変えず、自分がそれを見切るために1テンポ遅れてしまった時でも、「タイミングがずれただけだし」と言えば、たいていの相手は「まあ、そうかなあ」となるものだ。しょせんジャンケン、ビデオ判定も存在しないので、相手の記憶の中の後出しイメージなど言葉で何とでも変えられるはずだ。

 多くの場合、相手も本気で後出しができるとは思っていない。負けて悔しいから腹いせにイチャモンを付けるのだ(この場合、“正当な”イチャモンではあるのだが)。誰しも自分が細かいことにこだわるしつこい奴とは思われたくないはずなので、そのあたりのプライドをくすぐればうまく切り抜けられるだろう。

「負けない後出し」の欠陥とは

 もちろん、この「負けない後出し」にも欠点は存在する。それは多人数でのジャンケンの場合だ。構えをマークしているターゲットには負けないのだが、マークしているターゲットとあいこになる手を出した時、ほかの参加者がそれに勝つ手を出すと、負けてしまうのだ。また、臨機応変に手を変化させるという性質上、誰とも協力できないため、確率論や駆け引き論との併用も不可能である。

 したがって、この技は、1対1ではいかなる駆け引きをも打ち破る無敵の強さを誇るが、多人数戦では勝率を上げることはできるものの、第1章や第2章の手段に比べると、あまり有効ではないのだ。

 では、1対1では「負けない後出し」は絶対に破れないのか? 実はほかのテクニックと同じく、これもまた“絶対”ではないのだ。

 この技の“無敵”の2文字が消される、その1つの解答としては、構えの段階からジャンケンポンのポンの掛け声の寸前までグー→チョキ→パー→グー→……と手を変え続け、「負けない後出し」におけるフェイズ1【確認】の作業をするのを防ぐという策がある。

 しかし、この策ははたから見ていてとてもエレガントとは言えないし、何より勝率は50%に戻るだけなので、たいして利益はない。相手の技をうまく利用して50%を超える勝率をたたき出してこそ、「技を破った」と言えるのである。それには「負けない後出し」の欠陥を突く必要がある。

 「負けない後出し」の欠陥とは何か?

 それは「1度手を変えてしまうと、もとに戻せない」ということだ。つまり、フェイントに弱い点である。「負けない後出し」はいわば剣道における上段の構え、一撃必殺の技なので、一度動いてしまうとスキだらけになってしまうのだ。

 具体的に書こう。もし、あなたが構えの段階でグーを出しているなら、「負けない後出し」を使おうとしている相手は、構えの段階でパーを出していることになる。そこで、ジャンケンポンの掛け声のポンの寸前で、あなたが一瞬パーに手を変え、ポンで再びグーに戻せば、相手はこのフェイントに引っかかって、チョキを出してしまうはずである。こうすればあなたの勝率は100%となり、技を破ったと言えるだろう(ただし、タイミングを逸すると、逆に後出しの反則を取られるので注意が必要)。

 このフェイントは、「負けない後出し」を使おうとする者にとって、極めてやっかいな問題である。ゆえに、当然ではあるが、勝負前に「負けない後出し」の使い手であることを相手に明かしてはならない。また、「負けない後出し」の使い手同士の対戦となった場合、先の理由によって僕なら破る側に回ることを選択する。

 だが、だからといって「負けない後出し」が弱いというわけではない。フェイントの効果が如実に現れるのは、技の使い手が未熟な場合だけだからだ。それなりの鍛錬を積めば、フェイントが見切れるようになってくるし、さらに鍛錬すると、構えの手をグー→チョキ→パー→グー→……と変えていくエレガントでない策にも対応できるようになってくる。

 なぜなら、ある程度「負けない後出し」がうまい人は、ジャンケンポンの最終局面で相手の手が閉じていくか(グー)、開いていくか(チョキかパー)で自分の手を決めるからである。

 とはいえ、それほどの達人を相手にした時でも、対抗策は一応ある。やり方は簡単。構えの段階で手をグーにして、甲を相手の方向に向ける。そして、ジャンケンポンで、相手と逆の方向(手の甲に隠れて相手から見えない方向)に中指と人差し指を伸ばしてチョキにすれば、グーのままだと勘違いしてパーを出す「負けない後出し」の使い手に勝てるのだ。

 ただ、1対1の勝負だと、相手からは単なるイカサマのようにも見えるので(手を確認してから、死角にこっそり指を伸ばしたように見える)、第3者としてお互いの手を確認してくれる審判がいなければ、このカウンターは成立しないだろう。

 そういうわけなので不幸にも審判をしてくれる人が見当たらない状況だと、もう対処の仕様がなくなる。そういう場合は、「手を出すところを見るな」としか言いようがない。何かを決める時なら、コイントスなどに移行するのが無難だろう。イカサマをしている雰囲気の客がいたら、下手に対抗せず、出入禁止にするのが賭場でも常道の対応なのである。

【参考文献】
つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで 』(ロバート・アクセルロッド著)
ふしぎな数のおはなし』(芳沢光雄著)
http://www.shizecon.net/sakuhin/50jhs_aki.html』(河合千晶作)
サザエさんジャンケン学
HUNTER×HUNTER 14』(冨樫義博著)
じゃんけん必勝法


 ……ここから先はあまり重要ではない「第4章 気合い論」「おまけ 表紙ができるまで――ラフイラスト公開」なのですが、興味を持たれた方はKindle版『ジャンケン基本論』をチェックしていただければありがたいです! ケータイでもKindleアプリ(iPhone、iPod touch、iPad版Android版)をダウンロードすれば読めます。

 ちなみに表紙は端末で他のKindle本を探す時にも目につくところなので、元気や癒やし、安らぎを得られるような雰囲気を意識してみました。観賞用としてもオススメです!

アイティメディア退職と電子書籍『ジャンケン基本論』発刊のお知らせ

 3月31日をもって、アイティメディアを退職することにいたしました。ほかの退職エントリのように在職中のことを振り返ろうかと思ったのですが、僕の場合はWebメディアということで痕跡があちこちに残っており、主要な仕事は自分でまとめてもいるので、ちょっと状況が違いますね。5年間の在職中に社内外関わらず、本当に多くの方にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

 この5年間の中で思い出深いのは、会見などの内容をできるだけ忠実に伝えるような記事を書くことに注力してきたことです。スタジオジブリ宮崎駿監督の講演「悪人を倒せば世界が平和になるという映画は作らない――宮崎駿監督、映画哲学を語る(2008年)」や元ライブドア社長の堀江貴文氏の会見「「一方的な報道による誤解を解きたい」――堀江貴文氏の逮捕後初の会見を(ほぼ)完全収録(2009年)」、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんの講演「岡田武史氏が語る、日本代表監督の仕事とは(2009年)」などでは、その内容を詳しくお伝えしたことで、分量の限られた媒体では分からない姿が見えたという声もいただきました。

 また、どうしても感情的ないさかいが起きがちな放射線の問題についても、東京大学の早野龍五教授の講演「「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか(2011年)」を詳しく紹介したことで、冷静な議論が行われる土壌作りに貢献できたのではないかと思っています。

 いわゆる書き起こし記事というものは、ネット生放送と同じく、実はイノベーションが生んだ手法であると思います。デジタルデータで録音できるICレコーダーが広まったのはここ10年ほどのことですし、「おこしやす」のような書き起こしの補助として役に立つフリーソフトが出てきたのも同じくここ10年ほどのこと。そして、書き起こした内容をすべて掲載でき、すぐに多くの人に広められるウェブメディアが登場したのも最近のことです。

 特別な訓練を受けていなくても一次情報を正しく伝えられるという意味で、書き起こし記事の意義は大きいです。私が2008年に初めて宮崎駿監督講演の書き起こし記事を書いた時、同様のことをしていたのは産経新聞ぐらいではなかったかと記憶していますが、今では先日の堀江貴文さんの仮釈放後の会見記事「堀江貴文氏が仮釈放、記者会見の様子を全文起こしでレポート」に代表されるようにさまざまな媒体でなされるようになっています。ニーズがあることを実証したことで、その普及に少しなりとも貢献できたことをとてもうれしく思っています。著作権は大切にするべきですが(いろいろご迷惑もおかけしました……)、書き起こし記事が増えてきたのは、公正な社会を作るうえで非常に良い傾向だと思っています。

 もちろん会見取材では、単なる書き起こしにとどまらない、独自視点を加えた記事も大切です。しかし、取材している記者より詳しい知識を持っている専門家がソーシャルメディアで活動し、その発言も含めてTogetterやNAVERまとめなどでまとめられるようになっている今、社会全体としてはその議論の中心となるような一次情報を提示することの方が独自視点の提供より重要になってきていると感じています。

 今後はフリーとなりますが、ネットの新しい流れに乗って、いわゆるフリーライターとは違う形でメディアに関わり、社会に何らかの形で貢献していきたいと思っています。半匿名のような形で活動する予定ですが、表で何かをやっているふりをしつつ、裏ではドラクエ10をやり込むなどしてスクウェア・エニックスの黒字化に貢献しているかもしれません(笑)。

 これからやっていきたいことの1つに電子書籍があるのですが、この機会にKindleストアで『ジャンケン基本論』という書籍を99円(Kindle Unlimited対応の実験で2019年1月に2.99ドルに値上げ)で出してみました。ある冊子で公開した「いかにしてジャンケンに勝つか」を突き詰めた内容がある程度、反響を呼んだので、より広い場所で公開するために再構成して、イラストレーターのあどぺさんに表紙と挿絵も描いていただきました。

 主要部分はリンク先のページで試し読み版としてご覧になれますが、Kindle版ではおまけ要素を加えているので、投げ銭や餞別代わりにでも購入していただければありがたいです! Kindle端末がなくても、Kindleアプリ(iPhone、iPod touch、iPad版Android版)をダウンロードすればケータイでも読めます。

 →「電子書籍『ジャンケン基本論』試し読み版

 →インタビューを受けました「【KDP最前線】君は勝ち残ることができるか「ジャンケン基本論」を執筆した堀内彰宏さんにインタビュー



ジャンケン基本論』目次
第1章 確率論
第2章 駆け引き論
第3章 イカサマ論
第4章 気合い論
おまけ 表紙ができるまで――ラフイラスト公開

ソーシャルゲームの確率への疑問、そしてユーザーが勝つ方法について

 ここ最近、『アイドルマスターシンデレラガールズ』(バンダイナムコゲームス)のガチャで散財といった話題が飛び交っているソーシャルゲーム界隈。

ソーシャルゲームが抱える潜在リスク 「射幸心」あおる仕組みとは
モバイルSNSゲームが儲かる本当の理由。かーずSPはなぜ15万もつぎ込んだのか?
ソーシャルガチャ課金誘導はすでにネットゲームを超えた

 コンプガチャや予告ガチャのほか、「ガチャで当たりが出る確率を運営が操作している」という話も、こうしたエントリでは語られている。ガチャの形式は置いておいて、確率については、全体の確率はその時々で上下させていることはあるだろうが、確率で選ぶと宣言していることについて、恣意的に結果を操作することはないだろう、と僕は考えていた。

 しかし、「運営がアナウンスした確率通りに抽選が行われなかったのではないか」という例が『ドラゴンコレクション(ドラコレ)』でつい昨日発生したので、記録に残すためにエントリを書いてみようと思った次第だ。

●1.当選本数限定、応募数が少ないほど得になるくじ引き(2月6日)

 ドラコレはコナミGREEプラットフォーム上で提供しているソーシャルゲーム。ジャンル的にはカードバトル型ゲームと分類され、さまざまなモンスターのカードを使って、クエストを進めたり、他のユーザーとバトルしたりする。先日、登録者数が550万人を突破し、それに感謝するという名目のキャンペーン「550万人突破記念くじ」が2月6日14時から10日14時まで行われた。

 くじは1枚550ジェニー(ドラコレの通貨単位)で、応募できるのは次に示したA賞からE賞の5つ。それぞれの賞に応募したくじを抽選し、当選本数分の賞品を贈るというもの。何枚でも購入可能で、複数本数の当選もありうるという。応募が少なければ少ないほど得になり、極端な話、A賞への応募が550枚だけなら、全員当選ということになる。

A賞 レジェンドガチャチケット(当選本数550本)
B賞 自属性レア+ガチャチケット×5(当選本数5500本)
C賞 回復薬×3(当選本数55000本)
D賞 自分用ハーフ回復薬(当選本数550000本)
E賞 レアメダル(当選本数5500000本)

 目玉はA賞で、現在一番強いカードランクであるレジェンドのカードがランダムで当たるチケットが賞品である。しかし、これら5種類の賞品はすべて、グリーのドラコレコミュニティを通じたユーザー同士のトレードですぐに手に入れられるもの。コミュニティではほぼ即時で取引が行われており、税金などがかかることもない。

 そこで、1枚550ジェニーのくじでいくらくらいの賞品を狙うことになるのか分かりやすくするため、コミュニティの相場をもとにA〜E賞の賞品をジェニーで表してみた※。

※回復薬1個=40万ジェニーで計算。自分用ハーフ回復薬はトレードできないので、ハーフ回復薬として計算した。

A賞 4000万ジェニー(当選本数550本)
 →総計220億ジェニー→損益分岐点4000万枚
B賞 2000万ジェニー(当選本数5500本)
 →総計1100億ジェニー→→損益分岐点2億枚
C賞 120万ジェニー(当選本数55000本)
 →総計660億ジェニー→損益分岐点1億2000万枚
D賞 20万ジェニー(当選本数550000本)
 →総計1100億ジェニー→損益分岐点2億枚
E賞 8万ジェニー(当選本数5500000本)
 →総計4400億ジェニー→損益分岐点8億枚

 また、賞品価格に当選本数を掛けるとA〜E賞の総計ジェニーが算出でき、それを550ジェニー(くじ1口の価格)で割ると、損益分岐点となる応募数が算出できる。応募者にとって、応募数が損益分岐点を下回ると得し、上回ると損する可能性が高くなる。

●2.もしかして得になる?(2月8日)

 A〜E賞の応募総数は、毎日14時に途中経過が発表される。キャンペーン開始から2日経った2月8日14時のデータが次の表である。そして、もしこの状態で抽選されたら、1口当たりどのくらいのリターンが見込めるかも計算。加えて、過去2日と同じペースで残り2日間も応募数が増えた時のリターンもカッコ内で示した。

A賞 2億9757万2623枚→0.13倍(0.07倍)
B賞 1億941万9279枚→1.83倍(0.91倍)
C賞 5668万2453枚→2.12倍(1.06倍)
D賞 1266万5812枚→15.79倍(7.89倍)
E賞 2930万5019枚→27.30倍(13.65倍)

 目玉であるA賞に応募が殺到しているのだが、D賞やE賞は儲かる可能性が極めて高くなっている。D賞の賞品の自分用ハーフ回復薬はトレードできないのだが、E賞の賞品のレアメダルは取引可能で、かつ流動性が極めて高いので、一気に資産を10倍以上にするチャンスである(いわゆる裁定取引だ)。

 しかし、いくつかの懸念点がある。

1.賞品のレアメダルがマーケットに大量出品され、レートが下がる
2.賞品を手動で1つ1つ受け取らないといけない可能性がある
3.2ちゃんねるなどで「儲かる」とバラす輩が出る
4.当選数に突然、上限が設けられる
5.偶然にも全然当たらない

 E賞で配られるレアメダルは全部で550万枚なのだが、ドラコレではプレイヤー全員にレアメダルをプレゼントといったキャンペーンもしばしばあるので、価値の下落が起こるとすれば一時的なものにとどまると判断し、1は解消。

 その他の問題も無視できるレベルにあると考えて、手持ちのカードや回復薬をトレードでジェニーに変えて、E賞に突っ込むことにした。多少トレードで損しても、後で10倍になると考えれば安いものである。

 2月8日だけで、E賞のくじを32万6050枚購入。2月8日14時時点でE賞の応募数は2930万5019枚なので、その100分の1以上となる。登録者数が550万人であることを考えると、これがどれだけ思い切った勝負であるかお分かりになるだろう。筆者は無課金でプレイしているのだが、トレードコミュニティで「出)ドラゴンジェリー 求)回復薬50個」「出)回復薬45個 求)ドラゴンジェリー」と同時に書き込むといった姑息な手段を通じて儲けてきた。ここにきて、そこで貯めた資産を一気に突っ込んだのである。

 2ちゃんねるのドラコレ板を覗いても、E賞がチャンスであることに気付いている人はいない様子(気付いても普通は書き込まないだろうが)。シメシメである。

●3.運営の逆襲(2月9日)

 そして、翌2月9日14時。締め切り前日、最後の途中経過なのだが、E賞の応募数は5887万1080枚。前日までの倍の応募数である。さすがに僕のほかにも気付いた人がいるのだろう。この時点で想定されるリターンも合わせて書くと以下の通り。

A賞 3億9243万5357枚→0.10倍
B賞 1億5169万4102枚→1.32倍
C賞 7873万2396枚→1.52倍
D賞 1808万9708枚→11.06倍
E賞 5887万1080枚→13.59倍

 応募は増えたものの、まだE賞のリターンは10倍くらいにはなりそうな雰囲気。と思いながらページを切りかえると、マイページの下の方に何やら告知がある……。

 ん?

 (#^ω^)ピキピキ

 運営がばらしとる……。別の観点から見ると、当選数や応募数を運営が恣意的にいじる意思がないことの表れとも言えるかもしれないのだが。

 どうするか迷ったのだが、現在最も応募数が多いA賞と同レベルにまで、E賞の応募数が増えても、リターンは倍になる計算なので作戦続行を決断。残っていた全財産をジェニーに変えてE賞のくじに突っ込む。無料ガチャも引けるだけ引いて、引いたカードはすべて売り払う。いわゆるゼンツである。最終的な応募数は37万3130枚となった。

  2ちゃんねるのドラコレスレでは、応募数を減らそうと“こうどなじょうほうせん”も発生。E賞への応募をけん制しようとする人、話をそらそうとする人、さまざまである。僕は情報操作は好きではないので、ここは見守っているだけである。

――――――――――――――――
778 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 21:53:09.69 id:fZI6rDES0
おまいら今からでも遅くないから、とにかくメダルくじ買えるだけ買え。
例え応募数が今日の4倍になっても4万ジェニーでメダル1の計算。明らかに稼げる。

780 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 21:54:31.62 id:SRVvwjFS0
>>778
しー

805 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 22:13:30.53 id:sTp9lzEKO
俺とリア友3人で約9億ある
全部メダルに突っ込むぜ

814 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 22:19:14.73 id:zkk4kdRo0
>>805
コロヌ!!
やめろ!やめてくれ!

810 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 22:15:54.41 id:OK4R2bUO0
>>805
やっぱり様子見組が動いてくるよな・・・
メダルに突っ込んで大丈夫か不安になってきた

854 :友達の友達の名無しさん:2012/02/09(木) 22:47:43.94 ID:/XA6LQFSi
流れ無視して悪いが、お前らって無印のdown って使ってる?
暴発怖くて使う気になれない

933 :友達の友達の名無しさん:2012/02/10(金) 00:34:19.40 id:wcXPQxmW0
おれはDに7500万ジェニー。
Eに1000万ジェニーつぎ込んだ。
おまえらがEを買い漁るのはすでに予想済み。
――――――――――――――――

●4.勝利か敗北か(2月10日)

 最終的な応募数はどうなったのか。10日14時の締め切り後、メンテが開けた15時に発表された数字が↓だ。

 くじ1枚当たりの当選確率と、想定されるリターンを計算すると次のようになる。運営がバラしたお陰で応募が殺到したため、10倍といったことにはならなかったが、大勝利とは言えるだろう。経済学の効率市場仮説が正しいなら「1万円札が道端に落ちていることはない」はずだが、そうではない特殊なマーケットである。

A賞 5億1854万3448枚→0.0000011%、0.08倍
B賞 2億1717万1906枚→0.000025%、0.92倍
C賞 1億1553万1490枚→0.00048%、1.04倍
D賞 3847万1119枚→0.014%、5.20倍
E賞 1億7239万1309枚→0.032%、4.64倍

 それにしても不思議なのは、分の悪いA賞にこれだけ応募が集まっていること。計算できない人がそんなに多いのかという気もするのだが、いくつかの理由が考えられる。

 ドラコレのトレードコミュニティの参加者数を見ると、多いところでも6万人ほど。つまり、550万人の登録者のうち、10万人くらいしかトレードを活用しようという意思がないということになる。A賞賞品のレジェンドガチャチケットはトレードする人は簡単に手に入るのだが、トレードしない人がレジェンドカードを手に入れようとすると有料のガチャを回し続けるしかない(一応、無料ガチャでも出るらしいが)。それと比較すると、0.0000011%というのはリーズナブルな倍率ということなのかもしれない。

 そして何より大きいのは「一番価値の高い賞が当たる可能性に賭けたい」、夢を買うということだろう。それに当たり前のことではあるが、そもそもユーザーは儲けるためにドラコレをやっているわけではない。僕の目から見ると、日々に何らかの目的が欲しくて、プレイしている人が多いように思う。まあ筆者の場合は、無課金でありながら最強プレイヤーになりたい、というのが動機ではあるが……。

 そして当選発表が行われたのは、2月11日2時ごろ。混乱を恐れて、人がいない時間帯を選んだのだろう。E賞を37万3130枚購入している場合、期待値は1万1904枚。試行回数が多いので、ほぼこの周辺に収束するはずである。発表された数字を見てみると……。

 (つд⊂)ゴシゴシ

 当選本数……ゼロ!? 何が起こっているのか。2ちゃんねるのドラコレスレを見ると、賞品を受け取っている人がいる一方、他にも同様のことが起こっている人がいるようだ。ちなみに442は僕である。

――――――――――――――――
386 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 03:16:31.10 id:Fi65/9TVO
メダル645000枚買って当選0ってナメてんのか!?
確率ってやつを社員に教えてやったほうがいいな。

431 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 03:38:33.40 id:Fi65/9TVO
ガラケーじゃスクショ貼れないのかな?

438 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 03:41:32.89 id:FGGcOuID0
>>431
スクショ撮れるなら貼れるんじゃね?

442 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 03:43:42.68 id:OGUF1vGo0
37万枚しか買ってないから、E賞が1枚も当たらないのも仕方ないよね〜。
これは問題だと思うから、共有用にスクリーンショット置いとく。
http://iup.2ch-library.com/i/i0560679-1328899077.jpg

446 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 03:45:57.70 id:yaRSUpZl0
>>442
これはひどい
全力で苦情言ってこいw

554 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 04:31:06.08 id:jnO+RWh+0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2622501.jpg

579 :友達の友達の名無しさん:2012/02/11(土) 04:38:08.90 id:D7pJgyam0
>>442と>>554だけでメダルに110万枚応募して当選0枚wwwwwwwwwwwwwwww
回復1500個がメダル0に変身wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
――――――――――――――――

●5.その確率はおかしい(2月11日)

 さすがに何らかの不具合があったようで、4時ごろに公式のお詫びのアナウンスが出る。

 そして、6時ごろレアメダルが7835枚振り込まれたのだが、期待値の1万1904枚より30%以上少ない。2ちゃんねるやグリー内の公式コミュニティを見ていると、ほかの人も同程度のようである。

 すると8時ごろ、さらにレアメダルが7835枚振り込まれる。当選枚数は合わせて1万5670枚ということになるのだが、今度は逆に期待値より30%以上多い。

 31分の1で当たるくじを37万3130回引いた場合、当選数が期待値の上下20%以内に入らない確率はどのくらいか?

 二項分布を正規分布とみなして、友人(@tomerun)にプログラムで近似計算してもらったところ、その答えは上下それぞれ2*10^-110となった(1兆分の1の1兆分の1の1兆分の1よりも遥かに遥かに低い確率)。僕がそのくらい運が悪いという可能性もあるのだが、ほかにも同様のずれを報告する人がいることを考慮すると、運営の抽選がマトモに行われていないのではないか、という疑問が浮かんでくる。不具合の補償で追加されたという見方もできるが、運営のアナウンスを読むと当選本数という認識で間違いないようだ。

 本当に純粋な抽選でレアメダルを550万枚配ったのか? 僕が最初の当選回数がゼロということは、抽選の分母として入っていなかった可能性もある。そのもとで本来より多くの枚数当選した人が、すぐにトレードでレアメダルを手放してしまうと、その修正をかけるのは難しい。そうしたさまざまな事情を勘案して、純粋な抽選ではなくなってしまったのではないかと予想する。僕は結果的に得した方なのだが、一定のルールのもとに運営されるはずのゲームに、断りなしに恣意的な判断やルール変更が入り込んでいる可能性があるのはいかんなあと思ったりもした。

 これが許されるなら、例えばコンプガチャで残り1つとなった時、当たりの確率を非常に低くするといった操作も行われ得るということ。運営がルールの運用について軽視し過ぎていないか、心配になった。

 ちなみにドラコレの場合、ユーザーが自衛行為の一環として、2ちゃんねるに「【GREE】ドラゴンコレクション課金ガチャ報告スレ」なるものを立てており、その確率がどのようになっているか検証している。しかし、あくまで自己申告であり、誰が書いているかも分からないので、極めて珍しいカードが出たという報告があった時などは「社員乙」などと書かれてスルーされることもしばしばだ。

 ケータイゲームでは何か問題が起こったとしても、スクリーンショットが撮れる機種が限られている上に、文章のコピペもしにくいので、外部に問題が広がることはあまりない。運営がその状況に甘えて、なあなあで終わらそうとするのはどうなのかなあ、と思う次第である。2ちゃんねる掲示板などを見ると、問題視している人が少なそうなので、厳格なルールのもとに運営される純粋なゲームとしてとらえていないんだなと感じたりもした。

●6.(本当はこっちが本編だった)ソーシャルゲームで稼ぐ方法

 ちなみに僕が何でこんなにスクリーンショットを撮っているかというと、実は違うことを書こうと思っていたからである。それは、リアルマネーが大きく動く可能性である。

 ヤフオクで検索すると、ドラコレの回復薬が多く売られていることが分かる。相場を見ると、回復薬1つ=35〜40円くらいのようである。つまり、これをリアルマネーで買えるだけ買って、トレードコミュニティでジェニーと交換、記念くじのE賞に全額投入し、数倍のリターンを得た上で、トレードコミュニティで回復薬に変え、再度ヤフオクで販売すれば、リアルマネーも数倍にできるのである。当選確率が応募数によって変動する懸賞特有の隙である。

 もちろん、グリーでは規約でRMTを禁止しているのでおおっぴらにはできないし、僕はゲームはガチでしかプレイしないのでもちろん手を出していない。しかし、RMTの取り締まりは極めて難しいので、そうした可能性を残す形の懸賞はアリなのかということである(個人的にはそういう曖昧な世界の方が好きなのだが、税金とかどうなるんだろ)。

 ちなみに今までに書いてきたことは既存のゲームなどでもあり得る状況なのだが、ソーシャルゲームは規模がまったく違うことが特徴。それは記念くじの賞品をRMTした時の価格を考えると分かるだろう。回復薬=40円として、A〜E賞の価値を計算したのが次の表だ。

A賞 レジェンドガチャチケット(550本)→220万円
B賞 自属性レア+ガチャチケット×5(5500本)→1100万円
C賞 回復薬×3(55000本)→660万円
D賞 自分用ハーフ回復薬(550000本)→1100万円
E賞 レアメダル(5500000本)→4400万円

 仮に1100万円のリアルマネーをRMTしてE賞につぎ込むとすると、当選確率は0.032%から0.014%に下がるのだが、もらえる割合が大きくなるため、リアルマネーで2363万円獲得できることになる。まあ、現実的にはヤフオクで1100万円のリアルマネーを投入できるだけの回復薬が売っているわけではないし、くじも1000枚単位でしか買えないので、その手間も膨大になる。ただ、10万円レベルの投資なら、流動性や手間を考慮に入れても十分現実的だ。

 ソーシャルゲームの場合、規模が大きくなりやすいし、その一方でプレイヤー全体が情報を共有する場も少なく、かつ儲けようと思って遊ぶ人もあまりいないので(お金を儲けたい人は多分ソーシャルゲームで遊ばない)、こうした歪みが生まれやすくなる。ほかの大規模ゲームなどでも同様の問題は起こっているのかもしれない。

 ……途中まで書いたところで、ソーシャルゲームの本質とはあまり関係がないし、結構グダグダだなと気付いたが、ブログだからそういうのもいいかということで、こんなところで終えたいと思う。

世界ナンバーワンが語るDungeon Raid超絶攻略!

 ものすごく偉そうなタイトルですが……、id:yaneuraoさんからリクエストをいただいたので、iPhoneのパズルゲーム『Dungeon Raid(ダンジョンレイド)』の攻略法を書いてみます。

Dungeon Raidなんてクソ喰らえじゃ!(やねうらお−よっちゃんイカを食べながら、息子語録を書き綴る)

 Dungeon Raidの概要については↓のゲームキャストさんの記事を参考にしていただければ。

【Dungeon Raid攻略 基礎編1】ゲームルールと基礎知識

 個人的には、Dungeon Raidの魅力は戦略(スキルの選び方)と戦術(タイルの消し方など)の多様性にあると思います。多様な選択肢があるからこそ、ゲームで自分らしさを表現できる可能性があるということです。

 iPhoneは“ボタン”が少ないので、家庭用ゲームやPCオンラインゲームに比べると、多様な選択肢を用意できなくなりがちです。Aボタンで攻撃するか、Bボタンでジャンプするか、後ろキーでさがるかといったことが、コントローラーで操作できないわけです。そこで画面内にボタンを用意するわけですが、アクションゲームなどではプレイ画面の制約などからボタン(選択肢)を多く置けない。そのため、みんな似たようなプレイスタイルをとらざるをえなくなる、自分らしさを出せなくなる。そこがiPhoneゲームの弱点だと思っています。

 iPhoneゲームでタワーディフェンスやパズルゲームの人気が高いのは、「どの位置にどの武器を配置するか」「どのマスを消すか」というように、画面内に多様のボタン(選択肢)を用意できているからではないかと感じていて、パズルゲームであるDungeon Raidの人気もそこにあると考えています。

 余談はさておき、どのようにして世界1位の点数を出したかを淡々と書いていきます。スキルの説明など基本的なところは省いているので、分からないところがあればゲームキャストさんの記事や「iPhone App「Dungeon Raid」攻略・まとめwiki」を参考にしてください。

●Harder Score(世界ランキング1位83万8332点、2位49万7761点)

 初期設定は↓の通り。

CLASS:Raider
RACE:Sauren
Perks:Daring、Cunning、Faithful、Agile
Flaws:Confused、Sneaky、Reckless、Slim

 コインプレイなので、まずRACEがアイテムショップで魔法効果付きアイテム出現率が倍になる「Sauren」と決まります。次に、欲しいPerks&Flawsがあるということで、CLASSがRangerになります。シールドを重視して「Raider」を選ぶ手もあるのですが、Cockyが結構辛いFlawなので僕は避けました。

 そしてスキルは「Boost Gold」「Treasure chamber」「Treasure※」がまず確定。残り1つが「Heal」「Skill Elixir」「Repair」の3つで迷うのですが、ハイスコアを狙うなら「Repair」1択。ポーションはマナポーションや酸ポーション、爆弾ポーションになると、「Heal」「Skill Elixir」で回収できなくなってしまうからです(結構よくある)。

※Dungeon Sprintでは「Treasure」を入れていないのだが、Harderでは成長を安定させたいので入れている

 実行段階は3つくらいのフェーズに分かれます。

フェーズ1:4スキルを揃える

 ハイスコア狙いなので、捨てゲーに徹します。最初のレベルアップで上記4スキルが出なかったら躊躇なくリセット。そして、レベル5までに2つ目が出なくてもリセット、レベル10までに3つ目が出なくてもリセット、レベル15までに4つ目が出なくてもリセット。あまり長く揃わないと精神的に病んでくるのですが、3時間くらいやれば1回くらいは揃うはずです。

 コインプレイは「Treasure chamber」が軸になるので、4つ目を「Treasure chamber」にしてCunningでクールダウンを14ターンにするのが理想的。ただ、そこはあまりこだわらなくても良くて、絶対目標はレベル15までに4スキルを揃えることです。

フェーズ2:4スキルをレベル10、コインボーナス率を100%、Boost Goldを+2にする

・レベルアップの優先順位

Treasure chamber>+Charisma>Repair>>>Boost Gold=Treasure>+Strength>+Luck>HP+10=Damage+2>+Dexterity

 「Boost Gold」「Treasure」はクールダウンの長い「Treasure chamber」と同じターンに使えればいいので、+Charismaがあればそちらを優先した方がいいです。初期は+Luckも重要です。

・UPGRADEの優先順位

Boost EXP>Quicken>Boost Gold>Boost UP>Blunting>Weapon Damage>Regenerate

 ある程度リスクを背負って成長優先で。4スキルが揃っている前提なので、HPやWeapon Damageは後回しにしても意外と進めます。Bluntingは重要ですが、序盤なら1つ取れば十分。使えないUPGRADEばかりの場合、とりあえず武器に何かを付けておけば、後でWeapon Damageに変換できるので便利です。

 アイテムショップはWeapon Damage重視ですが、Boost系が付いているものがあればそちら優先で。

フェーズ3:コインプレイ

 フェーズ2が終わると、いよいよコインプレイ(終わらなくてもできますが)。

 「Treasure chamber」の15ターン(Cunningがある場合は14ターン)のクールダウンの間に、いかに画面をコインとシールドで埋め尽くすかがポイントになります。

 「Treasure chamber」を使うターンに画面上をコインで埋め尽くすことを絶対目標とするので、敵やシールドの連鎖でのEXP稼ぎはしません。そうすれば、コインやシールド以外が2〜5タイルくらいで「Treasure chamber」のターンに突入できるはずです。ただ経験的には、「Treasure chamber」を使うターンになっても、コインやシールド以外を4タイル以上消せる状況なら、「Treasure chamber」を使う前に消した方が連荘が起こりやすくなるように思います。

 意外と差がついてくると思うのが、「Treasure chamber」でアイテムショップの連荘状態に入ってからのアイテムの取り方です。

 コインのボーナス率100%、Boost Gold(UPGRADE)+2で画面のすべてのコイン(36タイル)を取ると、207(33×6+3×3)ポイント入る計算になります。アイテムショップは50ポイントごとに登場するので、4〜5回の連荘が起こるわけです。つまり、連荘で4回に1回「Treasure」が出れば、永久パターンに入れることになります。

 アイテムショップでは、次の(1)〜(3)のアイテムがカギとなります。Weapon DamageやShield+2などはどうでもよくて、いかに連荘を長引かせるかという考え方が大切になるため、(1)のアイテムなら能力ダウンがあったとしても取った方がいいです。「Fireball」「Slash」を無視している人は多いと思うのですが、実は結構重要です。

(1)「Treasure」「Fireball」「Slash」がついたアイテム

(2)Boost Gold(UPGRADE)がついたアイテム

(3)「Golden Touch」「Heal」「Skill Elixir」「Explosive Armour」「Banish」「Repair」がついたアイテムをとって、画面上のコインタイルを増やす

 時々、「Treasure」「Fireball」「Slash」と「Boost Gold(UPGRADE)の−0.25」が重なったアイテムが出る場合がありますが、「Treasure」なら迷わず取るべきです。

 コインボーナス率100%、Boost Gold(UPGRADE)+2の場合、36マスのコインを「Treasure」で取って得られる点数は207ポイント、Boost Gold(UPGRADE)が+1.75になると189.75ポイントに減るのですが、その差は17.25ポイント。単純に考えると、「Treasure」を12回取る前にBoost Gold(UPGRADE)+0.25付きのアイテムが来さえすればペイするので、取った方が優位というわけです。

 ちなみに、コインボーナス率100%、Boost Gold(UPGRADE)+2の場合、「Fireball」は45ポイント、「Slash」は27ポイントなので、僕はBoost Gold(UPGRADE)が+2の時に限っては、「Fireball」「Slash」+「Boost Gold(UPGRADE)の−0.25」付きのアイテムも取っていいと思います。

 「Treasure」のスキルがあると連荘チャンスは2回あるわけですが、2回目では1回目連荘終了時のタイル状況が持ち越しになるので、特に1回目では(3)のアイテムをとってできるだけコインタイルを増やしておくことが重要になります。

 うまくTreasureが出ると永久パターンに入るのですが、そううまくは突入しないです。どなたかのブログに「アイテムショップでもEnchantが出やすいパターンとTreasureが出やすいパターンがある」と書いてあったのですが、それは僕も感じていてTreasureが出やすいパターンに当たると、永久パターンに入れる感じです。個人的にはコインタイルで埋め尽くしている状況だと、Treasureが出やすいパターンに当たれるような印象があります。

 ただ、永久パターンに入っても、第二の壁があります。それは遅延で、1000回くらい連荘が続くと、画面に指をポンと置いただけでは反応しなくなります。30万点くらいで止まっている人は、恐らくここであきらめたのではないか(わざと連荘を終わらせた)と推測します。

 僕もやめるか迷ったのですが、試行錯誤の末、画面の押し方を工夫することで切り抜けました。アイテムショップの選択肢を1秒押して、選べたら1秒指を離して、チェックボタンを1秒押す。こうすると反応してくれるようになります。ただ、めちゃめちゃ時間がかかるので、80万点のハイスコアを出すのに実は3日間くらいかかりました。

 「何だよ、そのアナログな解決方法」という感じですが、これは多分ハードに起因する問題なので、もしかするとiPad2だと遅延がなくなっているかもしれません。同様の理由で、古いiPhoneを使っている人だとちょっと不利かもしれないですね。ちなみに僕はiPadでプレイしています。

●Harder Turns(世界ランキング1位1万568ターン、2位6151ターン)

 ターン数のハイスコア(↓の画像の10位)はid:yaneuraoさんが書かれたような、Meat Shieldのメソッドを使っています。Meat Shieldが来たら、Masochismで敵を出して、Shatterで攻撃力を1にして、Meat Shieldはbluntingで攻撃力1にして、Regenerate+30くらいなら、Meat Shield以外の敵を殴り続けて永久パターンに入れるというもの。

 詳しくは覚えていないのですが、↓のような設定でやったはずです。

CLASS:Raider
RACE:Halfling
Perks:Daring、Cunning、Faithful、Agile
Flaws:Cocky、Confused、Sneaky、Slim
Skill:Masochism、Heal、Boost Armour、Shatter

 しかし、これは書くのは簡単なのですが、実行しようとすると本当に本当に本当に大変です。

 そもそもRegenerateなどの条件が揃ったちょうどいい時にMeat Shieldが落ちてくるとは限らないし、何よりMeat Shield以外の敵を殴り続けるという作業を10000ターンやり続けるわけですよ。1ターン2秒としても、20000秒≒333分≒5時間半。僕は右手で雀龍門をやりながら左手で操作していたのですが、画面を見なくても操作できるように調整するのが中々難しかったです。うっかり別のマスを消してしまって、強い敵が降ってきたら終わりなので気が抜けません。「何で俺こんなことやってるんだろうなあ」と人生を考え始めてしまったら負けです。

↓10000ターン後に敵を出したら、えらく強いボスしか出てこなかった図

●Dungeon Sprint(世界ランキング1位23万1024点、2位11万7928点)

 基本的にはHarder Scoreと同じような考え方になります。ただ、コインプレイはHarderよりうまくいく可能性が高いです。なぜならポイントが倍になるので、コインのボーナス率100%、Boost Gold(UPGRADE)+2で画面すべてのコインをとると414ポイントとなり、アイテムショップが8〜9回連荘する計算になるからです。まあ100ターンという短い間で、その状態に持っていくまでが大変なのですが。

 初期設定は↓の通り。

CLASS:Raider
RACE:Sauren
Perks:Daring、Cunning、Faithful、Agile
Flaws:Confused、Sneaky、Reckless、Slim
Skill:Repair、Treasure chamber、Skill Elixir、Boost Gold

 スキルは画面をコインで埋め尽くすことを最重視して、Harderと少し変えています。「Treasure」がない場合は、「Treasure chamber」1回につき連荘チャンスは1回しか得られないわけですが、「Repair」「Skill Elixir」を使えば、剣と敵以外をすべてコインにできるというメリットを優先しました。

 ただ、ここは好みでいいとも思っていて、Harder Scoreと同じでも何ら問題はないはずです。「Skill Elixir」は「Heal」でも代用できますが、成長面でやや不利になります。

 「Treasure chamber」「Boost Gold」が必須で、「Repair」「Skill Elixir」「Heal」「Treasure」から2つを選んでいく形となります。捨てゲーは最初のレベルアップで「Treasure chamber」「Boost Gold」を取れるかどうか、「Repair」「Skill Elixir」「Heal」「Treasure」だったなら、その次のレベルアップで「Treasure chamber」「Boost Gold」が取れるかを基準にしていたと記憶しています。どこで捨てゲーするかというバランス感覚が問われるモードだと思います。

●Pretzel Hero(世界ランキング1位5656点、2位3162点)

 これもトップだったはずなのですが、久しぶりにランキングを見たら2位に落ちていました。なので、もっといい方法があるとは思いますが、一応僕の方法を書いてみます。

 Pretzel Heroだけはほかと考え方が違い、マゾプレイを使うことになります。交差によるポイントが1ターン1回しか入らない上に、HPが100固定なのでコインプレイでどれだけ強化したとしても500ターンくらいで死ぬからです。要はその500ターンの密度をいかに濃くするかが問題となるわけです。

 ポイントの入り方はさまざまあるのですが、分かりやすく考えると、2段×6列だと5ラップで10ポイント、4段×6列だと10ラップで30ポイント、6段×6列だと15ラップで100ポイント。同じ種類のタイルが増えれば増えるほど、等比級数的にポイントが増えていくので、いかに短い周期で、いかに1種類のタイルで埋まる状態を作っていくか、に注力することになります。

 どの種類で揃えるかということですが、スキルなどから総合的に考えて剣と敵で揃えることにしました。ただ、ここは別の方法があると思っていて、Treasure chamberを使って、コインで揃える手もあるような気はします。

 どちらが正しいかは分からないですが、僕が2位のスコアを出した時の初期設定は↓です。

CLASS:Raider
RACE:Halfling
Perks:Daring、Cunning、Faithful、Agile
Flaws:Cocky、Confused、Sneaky、Slim
Skill:Masochism、Skill Elixir、Heal、Repair

 4つ目をRepairにするとCunningの関係で、「Masochism」「Heal」「Repair」のクールダウンが5ターンで一致します。

 4ターンでシールドやポーションをできるだけ消して、5ターン目に「Heal」→「Repair」→「Masochism」と使って、剣と敵だけにして、交差を作っていく流れになります。「Skill Elixir」のクールダウンは8ターンなので、2回の交差タイムに1回、「Heal」「Repair」に加えて使っていくことになります。ターンは敵を倒すためではなく、シールドやポーションを消すために使いたいので、敵の攻撃に耐えられるようRegenerateを上げておきましょう。

 後半になると敵の攻撃力が上がってくるので、剣を消さずに敵だけ倒していくといった工夫も必要になってきます。5ターンに1回は30ポイントが確実に入ってくるので、2000ポイントくらいは安定して出るのではないかと思います。しかし、この戦略だと4000ポイントくらいが上限のような雰囲気で、トップのtkngさん(id:tkngさんでしょうか)が5656ポイントなので、それを抜こうとすると別の戦略が必要となるでしょう。

 ……まあでも実はここでも裏技があって、Regenerate+30くらいにして、Meat Shiedが来た時に敵で画面を埋め尽くして、Shatterで攻撃力を1にして、Meat Shied以外の敵で交差を作っていけば、スコアがいくらでも伸ばせたりします(死ぬほど面倒ですが)。こういうのが可能だと分かってしまうと、ちょっと興冷めですよね。

↓Spikeが出てきたら死を覚悟しましょう

●コインプレイの動画を撮ってみた

 いろいろ急いで書いたため、自分でも分かりにくいと思ったりするので、疑問点などありましたらお気軽にご質問ください。追加修正していきます。せっかくなので、Ustream生放送でのプレイもやってみることにします(Dungeon Sprintでコインプレイに入るところの動画が撮れたので公開します。↓の動画の19分6秒くらいから始まるプレイがそうで、実際にコインプレイがスタートするのは28分30秒くらいです)。

 細かいテクニックとしては↓のようにいくつかあったりします(しばらくプレイしていなくて忘れているので、後で足していきます)

・Boost EXPはできればヘルメットやアクセサリーにつける(武器だとアイテムショップで消える可能性が高い)

 時代の流れで仕方がないのですが、2ちゃんねるWikiTwitterやブログなどで最適戦略が周知されてしまうというのが、個人的にはもったいないなあと思ったりします。点数だけ出る状態で「どうやってハイスコア出したんだろう?」という方がワクワクすると思うんですよね。特に大人になると、実際のゲームプレイに時間をかけられなくなるため、戦略面の試行錯誤に楽しみを見出す人が増えると思うのですが、そこで答えらしきものが出ていると萎えちゃうんじゃないかなあと。そういうこともあって、詳しい戦略を書くことをためらっていたのですが、ゲームの公開から時間も経ったということで書いてみることにしました。

 あとは捨てゲーをなくせないかということですね。僕は一番好きなゲームが『トルネコの大冒険3』なのですが、異世界の迷宮では1階でハラモチの指輪を拾えるまで捨てゲーするんですね。捨てゲーができるシステムだとやらない方がバカを見てしまうので、どうしてもやってしまう。

 ただ、『トルネコの大冒険3』にはバリナボチャレンジモードという捨てゲーできないゲームモードがあって、それで異世界の迷宮に挑んだ時はとても緊張感あふれる展開になった記憶があります。そういうことがDungeon Raidなどでも応用できないのかな、と思ったりします。このあたりは自分で縛りプレイとしてやるしかないのかもしれないですが。ちなみに、プリンセスメーカーアトリエシリーズなどを「人生で1プレイしかやらない」と決めて真剣に挑むととても面白いので、お金はちょっとあるけど、時間はないという社会人にお勧めだったりします。1回プレイしたら自動的にアンインストールされて、再インストールできないゲームアプリとか作ったら意外と売れるんじゃないですかね。